わが家は仲がいいので遺産分割でもめるわけない――。そう考えている人も多いでしょう。しかし、いざ相続が開始すると、ちょっとした気持ちのすれ違いから摩擦が生じ、大きなもめごとに発展してしまうことがあります。そこで、株式会社タクトコンサルティング会長の本郷尚先生に「遺産分割で争わないために、やってはいけない8ヵ条」について教えていただきました。今回は「相続した自宅の名義」と「口座に入金しての贈与」の2つについての注意点をご紹介します。
■やってはいけない(4)
相続した自宅を共有名義にしてはならない
主な財産が自宅しかない場合などに複数の相続人で共有名義にしてしまうケースがあります。しかし、トラブルの元になりかねません。例えば、長男が住んでいる自宅を長女と次男を加えた3人の共有名義にすると、長女と次男には何のメリットもないからです。相続の際には納得したとしても、長女や次男にお金が必要になったときには、共有持分を処分したいと考えるでしょう。長男が買い取るだけの金融資産を持っていなければ、自宅を売却してその資金を3人で分けるしかありません。しかし、長男家族は、自宅が生活拠点になっていますから、簡単には受け入れられません。
「長男の妻などが義父母の介護をしていた場合などは、余計にもめてしまいます」(本郷先生)
最近は共有持分を買い取る業者もいます。第三者が関わってくると余計にややこしくなるので、共有せずに済む方法を考えるのが大事です。
では、次にもうひとつ贈与で「やってはいけない」ことをお伝えしましょう。
■やってはいけない(5)
孫名義の口座に入金しただけでは贈与は否認される
贈与税には年間110万円の基礎控除があります。この範囲であれば、贈与しても税金はかかりません。
「しかし、贈与をしても祖父母が孫名義の口座に入金だけで、孫がそれを知らないようなケースでは、認められませんから注意が必要です」(本郷先生)。
税務署に否認されないためには、受け取った本人が自分で口座を管理するなどして、贈与されたことを認識していなければならないのです。
「さらに確実にするためには、120万円程度の贈与をして、贈与税の申告をしておくといいでしょう」。
120万円の贈与では1万円の贈与税がかかりますが、申告することで贈与した記録が税務署にも残ります。仮に5年間続ければ、600万円を5万円の税金で贈与できますから、大きな負担にはなりません。
取材・文/向山 勇 イラスト/山崎のぶこ