実は「資産5000万円以下」が要注意!「もめない相続」の基礎知識

わが家は仲がいいので遺産分割でもめるわけない――。そう考えている人も多いでしょう。しかし、いざ相続が開始すると、ちょっとした気持ちのすれ違いから摩擦が生じ、大きなもめごとに発展してしまうことがあります。株式会社タクトコンサルティング会長の本郷尚先生に、注意点をお聞きしました。

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もめない相続が家族の絆を強くする

誰も望んだわけではないのに、遺産分割のとき、生涯憎しみ合うほど家族関係を壊してしまう可能性があります。些細な気持ちのすれ違いから摩擦が生じるためですが、逆に考えれば、ちょっとした心遣いでトラブルを避け、円満相続を実現することもできるということです。

山下佳代子さん(仮名)は、介護していた父親の口座からお金を引き出す際には、その目的と金額を記録しておきました。相続が開始した際に、その明細をほかのきょうだいにも明らかにして、残った預金を等分したのです。病院へ付き添ったときの交通費、おむつを買ったときの費用...一つひとつの明細は、佳代子さんが苦労した記録でもあります。ほかのきょうだいは改めて佳代子さんに感謝するとともに、残った預金を等分してもらったことを喜びました。きょうだいは少し疎遠になっていましたが、相続をきっかけにして家族の絆が強まったようです。

吉岡和夫さん(仮名)は、配偶者への配慮で円満相続を実現しました。5人きょうだいの吉岡さんは、ご両親が他界後、きょうだいで話し合い、墓の維持費を別に取り分けて残りの預貯金を5人で分けたそうです。5人のうち、3人は男でそれぞれ配偶者がいました。ご両親の生前は3人の嫁が何かと気を使い世話をしてくれたそうです。そこで、両親の預貯金から一部の額を3人の嫁に同額ずつプレゼント。相続でもめると、義父母の世話をした長男の嫁などが取り分を主張することがあります。それはお金が欲しいという気持ちよりも、自分の苦労を誰も認めてくれない不満であることも多いのです。

吉岡家のように感謝の気持ちを形に表すことで、トラブルを防ぐことができます。それは金額ではなく気持ちの問題です。2人のケースに共通するのは、相手の気持ちを考えて行動したことです。ほかのきょうだいが誤解しないように明細を残した山下さん、配偶者への感謝を形にした吉岡さん。当たり前のことのようですが、相続においてはなかなか難しいことでもあります。

 

資産の額が少ないほど相続でもめやすい

下の図は遺産分割でもめて裁判所に持ち込まれた案件の内訳です。

■遺産分割事件の金額別の内訳


実は「資産5000万円以下」が要注意!「もめない相続」の基礎知識 1906_p029_02.jpg※出典:法務省「司法統計」(平成29年度)

 
資産の金額別に見ると、最も多いのが1,000万円超5,000万円以下の層で約43%を占めています。1,000万円以下の約32%を含めると、全体の8割近くが資産5,000万円以下の層です。相続のもめごとは、お金持ちが資産を奪い合うようなイメージがありますが、実際には資産が少ない方がもめやすいのです。

また、最近では、財産が少なくても、相続税の対象になるケースが増えています。

■被相続人の数と課税対象者数の推移

実は「資産5000万円以下」が要注意!「もめない相続」の基礎知識 1906_p029_04.jpg※出典:国税庁「平成29年分の相続税の申告状況について」

 

2015年の相続税法の改正で相続税を計算する際に差し引くことができる基礎控除が大幅に縮小されたからです。実際に課税対象者が増えています。預貯金が限られている場合、あらかじめ納税資金を用意しておく必要があります。準備ができていないと、納税のために自宅を売却することにもなるので、気をつけましょう。

 

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取材・文/向山 勇 イラスト/山崎のぶこ

 

 

<教えてくれた人>

本郷 尚(ほんごう・たかし)先生

1947年生まれ。1973年、税理士登録。1975年、本郷会計事務所開業。現在、株式会社タクトコンサルティング会長。著書に『改訂新版 女の相続 ~SIX STORIES~』『笑う税金』『こころの相続』など。

この記事は『毎日が発見』2019年6月号に掲載の情報です。

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