心や体に障害がある人が就労を希望したとき、すぐに就職するのは難しい場合があります。そんなときに利用できる福祉サービスが「就労移行支援」です。働くために必要な知識や技能などを習得でき、就職活動の支援も受けられます。最近はひきこもりの人が利用するケースが増えています。就労移行支援事業所ココルポート(旧・Melk)の岸千尋さんに、就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れについて聞きました。
その人の適性を判断し就職をサポート
障害のある人が就労するための知識や技術を習得する場である就労移行支援事業所「ココルポート(旧・Melkメルク)」(東京都、神奈川県など)。
「障害者総合支援法」に基づき支援を行います。
「『トレーニング』から『定着支援』まで、利用者に合った支援を行います。就労移行支援事業所は、障害のある人が対象ですが、主治医の診断書か、『自立支援医療』制度の受給者証があれば利用できるケースが多いです」と岸さんは話します。
利用者の約7割の人が精神疾患で、その中の多くの人にひきこもり経験があるといいます。
「いま、通所中の利用者は就労意欲がある人です。通所回数は週2日から可能で、体調に合わせて支援内容や通所日数を検討します」
就労支援ではその人に合った就職先を紹介
「ココルポート」では利用者に適した仕事に就けるよう支援計画を作り、精神面でもサポートします。
「10年以上働いた後で、うつ病で数年間ひきこもっていた人などは、すでに必要な技能は身につけている場合もあります。対人関係の不安がなくなれば就職に踏み出せるなど、半年から1年で就職できる人もいます」と岸さん。
「ココルポート」を経て就職した人の9割は障害者枠での採用です。
心身の状態が考慮され、週4日勤務など無理のない範囲で働けます。
「就職後も職場に定着するための支援が受けられるので心強いといえます」と岸さんは話します。
★就労移行支援事業所「ココルポート」が行う「見学」から「就職」までの流れ
・見学
事業所ではどんなことを行うのか、作業を実際に見学します。簡単なアンケートに記入します。
・体験学習
興味があるプログラムに参加します。1〜3日通って実習した後で、利用の意思を確認します。
・手続き
自分が住む自治体の窓口で就労移行支援の利用申し込みをして、受給者証を発行してもらいます。
・トレーニング
支援計画書を作成し、生活や体調の安定も含めた就職に役立つ知識や技術を身につけます。
・就職活動
自分に適した仕事は何かを考えて会社を探し、主に障害者枠で応募して面接を受けます。
・就職
採用されたら、無理をしないように働きながら職場に慣れ、次第に仕事を覚えていきます。
・定着支援
職場に定着できるように、職場、主治医、ココルポートなどが連携して、面談や支援を行います。
★就労移行支援事業所はどんな人が利用している?
★心や体に障害のある人が利用できる制度とは
・就労移行支援
国の「障害福祉サービス」の一つで、障害のある人の社会参加を支援します。
就労意欲のある65歳未満の人が対象で、就職に必要な知識や技術を学びます。
事業所は全国に3000カ所以上あり、技術の習得や就職先の斡旋などを2年間受けられます。
・自立支援医療(精神通院医療)
精神疾患(統合失調症・うつ病など)は、治療が長期にわたることが多く、医療費がかさみます。
自立支援医療は、治療が継続できるように医療費の負担を軽減できる制度。
自治体の窓口で申し込みます。通常の医療費の自己負担3割が1割で済むようになります。
★トレーニング後に就職しました!体験談から
「5年間ひきこもり、精神科に入院したことも。いまは、やりがいを感じる職についています」
・Cさん...40歳代女性/病名:気分変調性障害、境界性パーソナリティー障害
Cさんは体の不調と精神疾患で仕事が長続きせず、32歳から5年間ひきこもりました。
症状が悪化して精神科に1年間入院。
少しずつ回復したCさんは、また働きたいと考えてココルポートに通い始めました。
最初は週2日の通所でしたが、半年ほどで週4〜5日の通所が可能になりました。
生活技能訓練、グループワーク、模擬就労などに参加し、10カ月ほどで就職したものの1カ月で退職。
ココルポートへの通所を再開しました。
精神的な落ち込みが激しく、ココルポート支援員との面談や病院でのカウンセリングを重ねて、1年後に営業事務職として就職。
いまは半年が経過し、体調も安定して仕事にやりがいを感じています。
「"生活保護受給から抜け出したい"との思いから、就労移行支援事業所で就職に向けてトレーニング」
・Dさん...40歳代男性/病名:双極性障害(躁うつ病)
Dさんは専門学校を卒業後、会社員として働き、躁うつ病になり34歳で退職。
次の会社ではパワハラに遭い、躁うつ病と糖尿病を発症して10カ月で退職しました。
その後1年間ひきこもり、生活保護を受給。40歳になり生活保護から抜け出したいと考えて、ケースワーカーからココルポートを紹介してもらい、2018年11月から通い始めました。
精神的な落ち込みがあるため、週2回の通所から開始し、半年後には週5日通所が可能に。
訓練では精神面の自己分析、コミュニケーション向上、パソコンなどの習得を行っています。
2019年7月から就活準備を始めて、9月から本格的に就職活動を開始しました。
★岸千尋さんのことば
障害があるから就職がうまくいかない。仕事が続かない。
そんな生きづらさを感じている人こそ支援したい!
取材・文/松澤ゆかり