仕事で転勤や異動、自分や家族が病気を患うなど、人生の転機を迎える可能性が高い中年期。急な報せに焦るかもしれませんが、うまく乗り越えれば残りの人生を有意義に過ごすチャンスにもなります。そこで、『自分らしく生きる! 40代からはじめるキャリアのつくり方:「人生の転機」を乗り越えるために』(石川邦子/方丈社)から、女性が抱えるライフキャリアの悩みとその解決方法について、連載形式でお届けします。
経験を語る効果
自分の経験を肯定的に振り返ることは主体的なキャリア形成のためにとても大切です。
ここで、「キャリア・アダプタビリティ」が重要になります。
アダプタビリティとは適応できる、順応できるという意味です。
キャリアを主体的に切り拓いていくためには、変化する役割に直面したときに、その変化を受け入れて、適応できる能力が必要です。
マーク・L・サビカス(米国キャリア心理学会の学者)は、適応力を高めるために大切なのは、「自分の将来に対して関心(Concern)を持つ」「将来についてのコントロール(Control)を強める」「自己の可能性を探求する好奇心(Curiosity)を持つ」「自分の実現性に自信(Confidence)を強める」ことだとしています。
4つ目の「自分の実現性に自信を強める」は、今までの経験を肯定的に捉えることからはじまります。
そのためには、今までの人生をカウンセラーなどの専門家に語ることが有効です。
人に話をすることで、客観的に自分の経験と向き合えますし、忘れていたことなども思い出せます。
キャリアカウンセラーなど専門家は肯定的に捉え直せるように支援してくれるでしょう。
最近、キャリアカウンセリングの中でナラティブアプローチが注目されています。
ナラティブとは物語、ストーリーという意味で「自己の経験を秩序立てて意味を与えていく、ひとつの有効な手段」とされています。
サビカスも「過去を解釈することは未来を適切にデザインすることを可能にする」としています。
過去の経験を現在の自分が新たに「語り直す」ことで、そこに新たな意味づけができる、と。
カウンセリングでも「昔は思い出したくもないと思っていたが、あの経験があったから今の私がいるのだと思えるようになった」と言われる方が多いものです。
他人と過去は変えられないといいます。
しかし、今の自分を肯定的に捉えることができていれば、過去の事実は変わらなくとも、意味づけは変えられるのです。
自己効力感を高める
また、経験を整理して他者に語ることで、頑張ってきたこと、自分では当たり前だと思っていたことを承認してもらえます。
そうして、より自己効力感が高まっていきます。
自己効力感とは、自分がやろうと思っていることが、できそうだという肯定的な気持ちになることです。
たとえば、何らかの課題に直面した際、こうすればうまくいくはずだという期待に対して、自分はそれが実行できるという自信を指します。
自己効力感は行動の選択や努力に影響を及ぼします。
職業柄色々な方の経験をお聴きすることがありますが、みなさん本当に頑張ってきているなと感心させられます。
でもそのことに気づいている人は本当に少ないのが現状です。
特に女性は補助的な仕事や裏方の仕事に就くことが多かったりすると、自己効力感が育ちにくいのです。
さらに日本社会では、やって当たり前、出来て当たり前で、承認するどころか、仕事の動機づけも結果のフィードバックもされていない職場が多いことが残念です。
そのため、自分のことを過小評価している人が多いように感じます。
だからこそ、カウンセラーは相談者の人生を、経験を、時間を掛けて傾聴・承認する役割だといえるでしょう。
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