仕事で転勤や異動、自分や家族が病気を患うなど、人生の転機を迎える可能性が高い中年期。急な報せに焦るかもしれませんが、うまく乗り越えれば残りの人生を有意義に過ごすチャンスにもなります。そこで、『自分らしく生きる! 40代からはじめるキャリアのつくり方:「人生の転機」を乗り越えるために』(石川邦子/方丈社)から、女性が抱えるライフキャリアの悩みとその解決方法について、連載形式でお届けします。
想定外の役割への対処
もし、想定外の役割を提示されて戸惑い、自分が思い描いていた予定キャリアを大きく狂わされたと受け止めてしまったら、どうしたらいいでしょうか。
「こんなはずではなかった」、「なんで自分がこんな目に遇うのか」と、立ち止まってしまう50代の相談者は少なくありません。
まずお気持ちを吐き出していただいた後、組織から提示された役割を詳しくお聴きすると、決して「こんな目に」というような役割ではなく、大切な役割だと感じる場合もあります。
おそらく、そのことは相談者自身も頭では理解しているものの、気持ちがついていかないのでしょう。
思い描いていた役割とは違う、自分が選んだのではなく押しつけられた、受け入れることができない。
そう思ってしまうのは、外的キャリアに囚われていることが多いのです。
この機会に内的キャリアを見つめて、本当にやりたいことを見つけていくことが重要になります。
外的キャリアとは、「どこの学校を出たか」、「どこに勤めている」、「どんな立場で」、「どんな仕事をしているのか」などの客観的な側面です。
内的キャリアとは、「働くことに対する考え方」、「生き方」、「価値観」、「仕事に求める意義」などの主観的な側面を指します。
役員時代の私も、自分がいなければ現場は回らないという慢心がありました。自分は必要とされていると安心しきっていたある日、突然ラインから外されたのです。
「えっ?私はいなくてもいいの?」と驚きましたが、組織というものは、誰がいなくなっても、多少の問題が生じたとしても、なんとか回っていくものです。
もう自分は必要とされてないという疎外感、周囲の視線が憐れんでいるように感じられ、惨めな気持ちでいっぱいになりました。
アメリカの心理学者・ブリッジスは、想定外のキャリアを提示されたとき、「何かが終わる」ことを受け入れることからはじまると言っています。
その後、トンネルを抜け出すまでのプロセスが「ニュートラル・ゾーン(中立圏)」(冷静に自分と向き合う期間)です。
頭では、もう過去には戻れない、前に進むしかないことは理解していても、心がついてこない、進むべき方向がわからず立ち止まって逡巡しているつらい時期です。
この時期には、「なぜ自分がこんな目に」という戸惑いや「こんなに頑張ってきたのに」という周囲への怒りが出てきます。
また、「みじめで情けない」という悲観に苛まれ、「〇〇しておけばよかった」という後悔がはじまります。
しかし、過去には戻ることはできず、やがて「どうにもならない」という境地に行きつき、受容していけたときに、次のステップに進めるのです。
時間をかけて自分と向き合う
このトンネルを抜けるために大切なのは、じっくり時間をかけて自分と向き合うことです。
・何が変化するのか、「変化による影響」を客観的に見つめる
・不安や葛藤、迷いをありのまま受容する
・「終わるもの」を明確にして「捨てるもの」を決める
・継続するものを明らかにする
人はこのような転機を乗り越え、自ら未来に向けて進みはじめることで、いくつになっても一皮むけるように成長できます。
残りの仕事人生をどう生きるのか、どんな役割を求められているのか、60歳、65歳の自分はどのようになっていたいのか、なりたい自分に近づくために逆算で考えてみましょう。
私の周囲にはいきいきと新たな役割を生きている50代や60代の方が大勢います。
たとえば、営業の第一線で活躍し、管理職も経験した方が、その経験を生かした社員の支援、相談対応の役割を担われています。
勉強熱心で今や私たちカウンセラー顔負けの知識と経験を積まれています。
また、中堅の人材が不足して、ベテランと若手だけの空洞化した組織では、専門職として培った経験やノウハウで若手の指導役として活躍されている方もいらっしゃいます。
最近の企業は、組織内の新陳代謝を促すことを主な目的として、役職定年制を取り入れています。
平成22年度の人事院調査によれば、従業員が500人以上の企業の35・4%が導入しています。
このような時代背景の中で、自分の人生をどのように描いていくのか、自律的に考えていくことが求められているのです。
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