症状が悪化するまで解決策にたどり着かない介護。事前に知っておきたい介護認定/道路を渡れない老人たち

信号を青の間で渡り切れないため、「買い物難民」になる高齢者がいるそうです。実は、身体機能が衰え、この速度で歩けない人は300万人以上だとか。そのような高齢者をサポートするリハビリ専門デイサービスを運営する経営陣の著書『道路を渡れない老人たちリハビリ難民200万人を見捨てる日本。「寝たきり老人」はこうしてつくられる』(アスコム)より、介護の現実をご紹介いたします。

【前回】日本の介護は予防の考えが少ない。現状では約32万6千人の待機老人は増え続ける/道路を渡れない老人たち

【最初から読む】青信号点滅の間に渡れない速度の老人は300万人以上。日本が抱える介護問題/道路を渡れない老人たち

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「できない」は「知らない」から生まれる

■「できない」のを当たり前だと思ってしまうのは「知らない」から

このような状況だからといって、あきらめる必要はありませんし、制度や体制が改善されるのをただ、手をこまねいて、待っていては、自分や家族が適切な支援を受けられない可能性があります。

不安と後悔の念を抱くことなく、安心して納得できる人生を送るためには、再三述べてきたように、介護に関する情報を自ら得ることが大切なのです。

知っていることで、支援は随分と変わります。

歩くことができない。

自分でものを食べることができない。

それは、本当に「できない」ことなのでしょうか?

改善する、解決する方法を「知らない」ために、「できない」と思い込んで、あきらめているだけかもしれません。

「はじめに」にも書きましたが、私自身、「できない」は「知らない」から生まれるのだということを痛切に感じた経験があります。

父は、70代前半でパーキンソン病を発症し、以降、亡くなるまでの十数年間、介護生活を送りました。

その間、自宅で拘縮予防のため、PTから週に2回訪問リハビリを受けていました。

そうしたとき、介護の事業を本格的に始めるきっかけとなるPTと出会いました。

後日、彼が自宅まで足を運んで、一度リハビリをしてくれるというのです。

それまでも父はPTからリハビリを受けていたので、劇的な変化を特に期待するでもなく、軽い気持ちで彼にお願いすることにしました。

しかし、私が目にした光景は信じられないものでした。

彼と弟子の2人のPTが父にリハビリを施すと、寝たきりの生活でガチガチに固まっていた父の身体が徐々に柔らかさを取り戻し、特に拘縮した左腕の動かせる範囲がどんどん広がっていくのです。

寝たきりになると、着替えやおむつの交換が大変なので浴衣になります。

ただ、拘縮がひどかったため、浴衣を着替えさせることすらもひと苦労でした。

それが彼のリハビリにより、随分と着替えがラクになり、さらにタンの切れまでもよくなったのです。

たった30~40分のリハビリでこれだけ変わるのなら、今まで続けてきたリハビリはなんだったのか。

同じリハビリでも、PTの知識や技術、経験が違えば、ここまで効果に差が出るものなのだろうか。

当時の私は、リハビリの可能性などもまったく知りませんでした。

もし知っていれば、このPTにもっと早く出会えていたならば、父が寝たきりにならずに自分で動くことができた期間がひょっとしたら3年ほども延びて、私たち家族の負担も、父の自尊心が傷つく場面も減らせたかもしれません。

あと数年間は自分で動けたはずの父が、動くことができなくなってしまったのは、私をはじめ、周りがリハビリについてよく知らなかったからだともいえるのです。

■症状が悪化するまで解決策にたどりつけない日本

リハビリに限らず、医療や介護に関しては、「知らない」が故に「できない」と思い込んでしまっていることが数多くあります。

いえ、むしろ、普通の人にとっては、そうしたことばかりではないでしょうか。

人は病気になったり、ケガをしたりして、病院に行きます。

病院に行けば、医師が病気やケガを治療してくれるでしょう。

それでは、治療が終わったら?たとえば、脳血管障がいなどでマヒが残っていても、150~180日が経過すると、薬は出し続けてくれますが、ほかに何をしてくれるわけでもありません。

自宅に戻り身体のバランスが崩れはじめ、歩きにくいなどの悩みを解決したり、お風呂の入り方などの生活を改善したりするにはどうしたらよいのでしょうか?

残念ながら、治療にあたった医師はそれを教えてくれません。

かかりつけの医師に相談する?

かかりつけ医は基本的に内科医のため、それ以外の診療科については不案内です。

行政同様、日本の医療の縦割りで非効率な点が、こうしたところからも見てとれます。

あるいは総合診療科を訪ねれば、解決策、改善策への道筋をつけてくれるかもしれませんが、総合診療科を設けている病院はほんのわずかです。

しかし、なんらかの解決策、改善策を示してくれる人はいます。

問題は、一般の人が、それが誰なのかが事前にわからないこと、どこにいるのかを知る機会がないことです。

結局、ほとんどの人は、病院での治療が必要となるほど症状がさらに悪化するまで、解決策や改善策を知らないまま過ごさなければなりません。

予防ができないのです。

苦労を背負う経験をしない限り、または奇跡的に親切な医療従事者に出会わなければ、医療リテラシーを高められないのが、現状なのです。

「できない」という思い込みにつながる「知らない」をなくすためには、自分自身の介護リテラシーを高めていくことが重要になります。

そこで、老後の幸せを守るために必要な支援を受けるために知っておかなくてはならない知識、情報についてお話ししていきます。

リハビリを受けるのに欠かせない要介護認定とは?

■要介護度の高さは、病気の重さと必ずしも一致しない

身体機能を維持させるためには、専門職によるリハビリが欠かせません。

保険適用外の民間のリハビリ施設に通うということも考えられますが、費用はかなり高額になります。

介護保険を使って、リハビリをするのが一般的なのではないでしょうか。

そこでまず、介護保険の申請について、話をしていきたいと思います。

65歳以上の人には、医療保険の保険証とは別に、介護保険被保険者証が市区町村より交付されます。

しかし、介護保険被保険者証を持っているだけで、自動的に介護保険サービスが受けられるわけではありません。

介護保険サービスを利用するためには、寝たきりや認知症などで常時介護を必要とする状態(要介護状態)、あるいは家事や身支度などの日常生活にサポートが必要で、特に介護予防サービスが効果的な状態(要支援状態)と認定されなければならないのです。

この要介護状態や要支援状態にあるかどうか、その中で程度はどれぐらいなのかを判定するのが、要介護認定(要支援認定を含む)です。

認定を受けるには、まず本人や家族が、本人が住んでいる市区町村の介護保険課などの窓口に申請書を提出する必要があります。

病院に入院中であっても、退院後に介護保険サービスを利用したいと考えているのなら、事前に申請することが可能です。

また、何らかの事情により、本人や家族が市区町村の役所まで足を運ぶのが困難な場合には、地域包括支援センターなどに代行申請を依頼することもできます。

その際には、依頼を受けた施設の職員が本人のもとを訪れ、手続きを進めます。

要介護認定は、介護サービスの必要度を判断するものです。

そのため、病気の重さと要介護度の高さは必ずしも一致しません。

たとえば、寝たきりになったときには、介護の総量が減ったとみなされ、要介護度区分は軽くなることもあります。

■要介護認定には、一次判定と二次判定がある

要介護認定に必要なものは、次のとおりです。

・要介護・要支援認定申請書

(役所・役場の窓口にあります。インターネットでダウンロードして、あらかじめ記入しておくことも可能です。主治医の氏名、医療機関の情報なども記載する必要があります)

・介護保険被保険者証(第1号被保険者/65歳以上)

・健康保険被保険者証(第2号被保険者/40~64歳の場合のみ必要)

・マイナンバーが確認できるもの・申請者の身元が確認できるもの(運転免許証、身体障害者手帳など)

・代理権が確認できるもの(委任状など/本人・家族以外が申請する場合)

・印鑑(本人・家族以外が申請する場合)

・代理人の身元が確認できるもの(本人・家族以外が申請する場合)

市区町村の窓口に申請書を提出後に、市区町村の職員や市区町村から委託されたケアマネジャーが本人を訪ね、日常生活、家族や住まいの環境、心身の状態などについて聞き取り(認定調査)を行います。

同時に、市区町村の依頼により、かかりつけ医が主治医意見書を作成します。

かかりつけ医がいない場合は、市区町村が紹介する医師の診断を受けることになるでしょう。

訪問調査の結果とかかりつけ医の意見書の一部の項目をコンピューターに入力することで、介護にかかると想定される時間(要介護認定等基準時間)を推計して算出し、7つのレベルに分類。

これが、一次判定です。

そして、一次判定やかかりつけ医の意見書、認定調査における特記事項をもとに、保健、医療、福祉の専門家たちによる介護認定審査会で審査し、二次判定を行います。

これらの認定調査の結果は、市区町村の窓口に申請書を提出した日から30日以内に郵送で通知されるのが一般的です。

通知書には「要介護状態区分」や「認定有効期間」などの情報が記載され、その要介護状態区分に応じて、介護保険サービスが利用できるようになります。


要介護度の状態区分

下に示した状態は平均的な状態です。

したがって実際に認定を受けた人の状態が、この表に示した状態と一致しないことがあります。

【要支援1】

(1)居室の掃除や身の回りの世話の一部に何らかの介助(見守りや手助け)を必要とする。

(2)立ち上がりや片足での立位保持などの複雑な動作に何らかの支えを必要とすることがある。

(3)排泄や食事はほとんど自分ひとりでできる。

【要支援2】

(1)見だしなみや居室の掃除などの身の回りの世話に何らかの介助(見守りや手助け)を必要とする。

(2)立ち上がりや片足での立位保持などの複雑な動作に何らかの支えを必要とする。

(3)歩行や両足での立位保持などの移動の動作に何らかの支えを必要とすることがある。

(4)排泄や食事はほとんど自分ひとりでできる。

【要介護1】

(1)(4)は、要支援2に同じ。

(5)問題行動や理解低下がみられることがある。

【要介護2】

(1)見だしなみや居室の掃除などの身の回りの世話の全般に何らかの介助(見守りや手助け)を必要とする。

(2)立ち上がりや片足での立位保持などの複雑な動作に何らかの支えを必要とする。

(3)歩行や両足での立位保持などの移動の動作に何らかの支えを必要とする。

(4)排泄や食事に何らかの介助(見守りや手助け)を必要とすることがある。

(5)問題行動や理解低下がみられることがある。

【要介護3】

(1)見だしなみや居室の掃除などの身の回りの世話が自分ひとりでできない。

(2)立ち上がりや片足での立位保持などの複雑な動作が自分ひとりでできない。

(3)歩行や両足での立位保持などの移動の動作が自分でできないことがある。

(4)排泄が自分ひとりでできない。

(5)いくつかの問題行動や全般的な理解の低下がみられることがある。

【要介護4】

(1)見だしなみや居室の掃除などの身の回りの世話がほとんどできない。

(2)立ち上がりや片足での立位保持などの複雑な動作がほとんどできない。

(3)歩行や両足での立位保持などの移動の動作が自分ひとりではできない。

(4)排泄がほとんどできない。

(5)多くの問題行動や全般的な理解の低下がみられることがある。

【要介護5】

(1)見だしなみや居室の掃除などの身の回りの世話がほとんどできない。

(2)立ち上がりや片足での立位保持などの複雑な動作がほとんどできない。

(3)歩行や両足での立位保持などの移動の動作がほとんどできない。

(4)排泄や食事がほとんどできない。

(5)多くの問題行動や全般的な理解の低下がみられることがある。

※参照:静岡市公式ホームページ

症状が悪化するまで解決策にたどり着かない介護。事前に知っておきたい介護認定/道路を渡れない老人たち 81ORlgTvuyL.jpg

全4章にわたって介護後進国・日本の仕組みや課題を取り上げ、警鐘を鳴らしています

 

神戸利文

三重短期大学卒業。親の介護の実体験がきっかけとなり、「理学療法士によるリハビリテーション」「日本で初めて介護保険分野で受けられるサービス」を誕生させたポシブル医科学株式会社と出会う。生活期のリハビリが不毛不足する課題解決のため、リタポンテ株式会社を設立。「日本から寝たきりをなくすためにおせっかいを科学する」を合言葉にリハビリを中心にした介護サービス事業を展開

 

上村理絵

中京女子大学(現至学館大学)卒業後、関西女子医療技術専門学校理学療法学科(現関西福祉科学大学)を経て理学療法士に。塩中雅博氏のポシブル医科学株式会社の創業を支援し、約10年間でのべ16万人に生活期のリハビリを提供し、そのビジネスモデルの骨格を現場で作り上げてきた。同社退任後、神戸利文とリタポンテ株式会社を立ち上げ、理学療法士の立場から「高齢者に本当に大切なリハビリ」を提供

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『道路を渡れない老人たち リハビリ難民200万人を見捨てる日本。「寝たきり老人」はこうしてつくられる』

(神戸利文,上村理絵/アスコム)

日本では身体機能に大きな問題を抱えたとき、初めて介護認定に向き合います。本来、健康寿命の維持が豊かさにつながるはずなのに寝たきり寸前まで介護を受けられる環境にありません。リハビリを通じて課題解決に取り組むデイサービス経営陣が書き下ろした一冊。

※この記事は『道路を渡れない老人たち』(神戸利文、上村理絵/アスコム)からの抜粋です。

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