2020年は時代が大きく変化し、「コンプライアンス」の見直しがされるようになりました。たとえば、SNSを使った気軽な副業が可能になりましたが、そのやり方は本当に法律に触れていませんか? そこで、弁護士・菊間千乃先生の著書『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』(アスコム)から仕事、社会生活、人間関係、家族、お金をテーマにトラブル回避のためのヒントをご紹介します。
資源ごみに出ていた雑誌を持ち帰る
【ケース1】古紙として資源ごみの回収日に出ていた雑誌の束。持ち帰ってみたらまだ新しい号で、よれよれのページなどもなし。ネット古書店に売ってもいいですか?
【答え】窃盗罪は免れても、自治体条例で罰金の可能性あり!
ごみ集積所に出された古紙は「誰のものでもない」と言える?
週1回の古紙回収日に、まだ売れそうな雑誌や書籍などが出されていると、持ち帰っても誰にも迷惑をかけないように思えます。
住民がごみ集積所などに出した古紙は、行政によって回収されるものです。
すでに市区町村に所有権が移転しており、これを持ち去る行為は、理論的には窃盗罪(刑法235条)に該当するとも考えられます。
ただし、実際にその罪に問われた例は稀なようです。
自治体条例違反では罰金の事例も
それなら持ち帰ってネット古書店に売ろう!と思ったあなた、少々お待ちください。
自治体の中には、独自に条例を定め、持ち去り行為に罰金を科すところもあります。
例えば東京都世田谷区は、資源・ごみ集積所に出された「古紙」「ガラス瓶」「缶」「ペットボトル」などについて、区長および区長が定めた者以外による持ち去りを禁止しています。
同区では、職員などがパトロールを行い、持ち去りを発見したら①警告書を出す、②持ち去り行為を繰り返す者に対しては禁止命令書を交付する、③それでもなお持ち去り行為を行う場合には、条例に基づき20万円以下の罰金刑を科す、と段階的な対策が取られています。
実際、同条例に基づき、古紙を持ち去った者に世田谷区が罰金刑を科したところ、この処分は最終的に最高裁で確定しています。
今回は、繰り返し持ち去り行為を行い、すでに警告書や禁止命令書が出されていたわけではありません。
世田谷区内で発生したと仮定しても、直ちに刑事罰が科されるわけではありませんが、自治体が条例で禁止する種の行為なのですから、控えましょう。
集積所に出されているごみは、そのへんに落ちているものとは異なり、行政が回収するために置かれているという認識が必要ですね。
会社の経費で私物を買う
【ケース2】商談相手へ出すお茶やお菓子の買い出しのついでに、毎回、自分の飲み物や雑誌も買って、まとめて領収証をもらっています。バレたらどれくらいの罪になるのでしょう?
【答え】詐欺罪または業務上横領罪で10年以下の懲役の対象!
内部監査や、人事異動時の引継ぎで不正が発覚する例多数
買い出しのついでにちょっとだけ自分のものを買ってもバレないし、バレても大きな問題にならないだろうという考えは短絡的です。
あなたの行為はれっきとした犯罪です。
商談相手へ出すお茶やお菓子の買い出しの際に個人的な飲み物や雑誌も購入し、まとめて会社に支払をさせれば、会社に対する詐欺罪(刑法246条)または業務上横領罪(同法253条)が成立します。
どちらに該当するかは事例によります。
例えば、これらの買い物に、「小口現金」(日々の経費の精算用として手元で保管している現金)を使用した場合には、業務上横領罪に問われかねません。
他方で、買い出し時にいったん自分で立て替えた上で、個人的な飲み物などの購入費用も含まれている領収書を会社に提出し、精算を受けた場合、詐欺罪に該当する可能性があります。
いずれの場合も、10年以下の懲役の対象です。
少額でも「不正」への処分は重い
また、経費の不正支出は、懲戒解雇を含む重い処分の対象になることが少なくないばかりか、退職金の全部または一部が不支給となることもあり得ます。
会社から別途損害賠償請求を受けることもあるでしょう。
自分の飲み物や雑誌を買うくらいであれば、少額なので会社もわからないだろうと思うかもしれません。
しかし、内部監査や、人事異動に伴う引継ぎ時に不正が発覚する例は枚挙にいとまがありません。
また、毎回の不正は少額であったとしても、不正が長期間続けば、その合計は多額になることもあり得ます。
不正な経費支出をすれば、厳しい責任を問われることになります。
公私混同は厳に慎みましょう。
飲食店の予約をすっぽかす
【ケース3】飲み会の予約をキャンセルし忘れ、当日店から連絡。別の客を断った損害補償を請求されました。料理自体は予約しておらず、損害は大きくないはずで釈然としません。
【答え】別の客を断った損害を賠償する責任が生じる!
席だけの予約だったとしても「すっぽかし」はお店には大きな損失
飲み会の幹事になると、グルメサイト上の飲食店を片っ端から電話して複数の店を予約した後、さらに主役の好みに合った店を引き続き探すことがありますね。
しかし、いくつかの飲食店を予約したのであれば、キャンセルすることをお忘れなく。
飲食店に予約をしていたのにすっぽかした場合、飲食店には、原材料費や食材廃棄費、人件費だけでなく、他のお客様を入店させていれば得られた利益分の損害などが発生する可能性があり、民事上、これらの損害を賠償する責任が生じます。
今回のケースのように席を予約していただけでも、お店が材料の準備やスタッフの手配をし、他のお客様がその席に着くのを断る必要がある点では同じなので、賠償責任が生じます。
一般的に、損害賠償額の1 つの目安として、コースの予約をキャンセルした場合はコース料金の全額、席だけの予約の場合は平均客単価の何割かと考えられています。
逮捕事例もあり
過去には、20名近くの宴会の予約を同日に4店舗にしていたケースで、偽計業務妨害罪(刑法233 条)で逮捕されたという報道がありました。
このケースでは、予約の際に偽名を使用していたなどの事情もあったため、最初から利用する意思がないのに、偽って飲食店に料理を準備させ、業務を妨害したと判断されたようです。
無断キャンセルが飲食業界に与える損害は、年間で2000億円ともいわれていて、社会問題といえます。
最近では損害を軽減するべく、予約の再確認をしたり、キャンセル料を明記したりする飲食店も増えました。
キャンセルの電話は早めに行いましょう。
普段の生活で「ついやってちまいがち」な違法行為が6つのテーマでシチュエーションごとにわかりやすく解説されています