2020年は時代が大きく変化し、「コンプライアンス」の見直しがされるようになりました。たとえば、SNSを使った気軽な副業が可能になりましたが、そのやり方は本当に法律に触れていませんか?そこで、弁護士・菊間千乃先生の著書『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』(アスコム)から仕事、社会生活、人間関係、家族、お金をテーマにトラブル回避のためのヒントをご紹介します。
既婚者と知っていながら不倫する
【ケース1】不倫が相手の奥さんにバレてしまいました。既婚者と知っていましたが、酔っていたし、たった一度のあやまちです。それでも慰謝料を求められたりするのでしょうか。
【答え】不貞慰謝料の請求が認められることも!
既婚者と知らなかった......が「過失」とされることも
ここ数年、世間を騒がせている不倫問題、自分が当事者となる危険は至る所に潜んでいます。
酔っぱらっていたから、相手に誘われたからといっても、相手が既婚者であると知った上で、自分の意思で一夜を共にし、肉体関係に及んだ場合、不貞行為に該当します。
たとえ一度きりだとしても、相手の配偶者からの不法行為に基づく慰謝料請求が認められる可能性があります。
仮に相手が既婚者だと知らなかった場合でも、注意を払えば既婚者であると疑うことができたときは、知らなかったことに「過失」があるとして、やはり上記請求が認められる可能性があります(民法709条)。
一度きりでもそうなのですから、当然ながら不貞行為の回数が多いほど、また、不倫の期間が長いほど、慰謝料額は高額となります。
慰謝料請求の時効は
慰謝料には、配偶者と不倫相手が不貞行為をしたことについての不貞慰謝料と、離婚することの精神的苦痛に対する離婚慰謝料があります。
離婚は最終的には夫婦が決めるものですから、第三者である不倫相手に対する離婚慰謝料が認められる場面は限定されますが、2つの慰謝料が同時に認められることもあり得ます。
また、相手の配偶者が不貞行為を知ったときから3年が経過すると、時効(同法724条)により、不貞慰謝料請求は認められなくなります。
ただしその時点で、相手夫婦の離婚から3年が経過していない場合、離婚慰謝料請求が認められる可能性があります。
既婚者であったり、既婚者であると疑われたりする場合、軽率に親密な関係になることはやめましょう。
友人と一緒に写った写真を無断でSNSにアップ
【ケース2】飲み会で一緒に撮った写真をSNSにアップしたら、「勝手に載せないで」と怒られました。
隠し撮りでも、不都合のある場面でもなく、なぜいけないのか、わかりません。
【答え】肖像権侵害で損害賠償の責任も!
撮影されたり、写真を勝手に公開されたりしない権利が、誰にでもある
友人との楽しいひとときを写真に撮って、SNSにアップ。
フォロワーからたくさんの「いいね!」をもらったなんて経験、あるのではないでしょうか。
しかし、写真をSNSにアップするときには注意しなければならない点が多くあります。
判例上認められた権利として、肖像権という権利があります。
肖像権とは、みだりに(正当な理由がないのに)身体や顔を撮影されたり、撮影された写真を勝手に公開されたりしない権利をいいます。
肖像権が侵害されたか否かは、その人の顔を特定できるか、撮影された写真においてその人がメインの被写体となっているか、写真が公開された場所は拡散される可能性が高いか、公開に関して同意があったか、といった点を考慮して判断されます。
撮影には同意あり。公開には?
写真を撮影することについては同意していても、その写真をSNS で公開することについて同意を得ていなかった場合に、断りなく友人の写真をSNSにアップすれば、その友人の肖像権侵害となるおそれがあります。
また、子どもが遊んでいる姿を見て、かわいいからと、その子の親の承諾を得ないで写真を撮ったような場合、みだりにその子の身体や顔を撮影したとして、肖像権侵害となる可能性があります。
そして、肖像権を侵害した場合、精神的苦痛を与えたことに関して、損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条)。
写真を撮るときやSNS にアップするときは、対象人物から同意をとることが肝心です。
また、対象人物を特定できないように加工した上でアップするなどの方法をとることも大切です。
SNSで誹謗中傷をする
【ケース3】何かと衝突する嫌なヤツ。腹に据えかねて、SNSで「二度の離婚歴あり」「出身校は偏差値最低ランク」など書いてやりました。どれも事実なので問題ないですよね?
【答え】名誉毀損罪の可能性あり!慰謝料が高額になることも!
「事実ならOK」「誰が書いたかバレない」は、どちらも誤り!
SNSを用いた誹謗中傷は、対象人物を傷つけ、時には、死に追い込むこともあります。
書き込んでいるのが自分だとはわからないだろう、と思って軽率に書き込みをしていませんか?
そのような認識は即刻改めるべきです。
SNSでの発言主は、プロバイダ責任法4条に基づく発信者情報開示請求により、特定することが可能です。
そして現在、SNSでの誹謗中傷被害の増加や深刻化を受け、同請求によって開示できる情報に、電話番号を加えることなどが検討されており、今後は発信者の特定はいまより容易になると思われます。
発信者として特定されれば、被害者の告訴により名誉毀損罪などに問われたり、損害賠償を請求されることもあるでしょう。
完全な匿名はあり得ないということを、まずは肝に銘じましょう。
今回の「二度の離婚歴あり」「出身校は偏差値最低ランク」といった書き込みは、内容は真実であったとしても、人の社会的評価を低下させるおそれがあるため、名誉毀損罪(刑法230条)が成立する可能性があります。
また、名誉毀損罪の「事実」とは「一定程度の具体性を持った事柄」という意味ですので、こういった書き込みが完全なウソであった場合も同じく名誉毀損罪が成立し得ます。
民事訴訟になることも
名誉毀損を理由とする損害賠償請求の訴訟を提起された場合、数百万円の高額な慰謝料が認められることもあります。
真実なら誹謗中傷にあたらないとお思いの方もいるかもしれませんが、そうではありません。
事実であれウソであれ、面と向かって言えないことであれば、SNSにも書き込むべきではありません。
「SNSを縛る法律」が、必要でしょうか?
韓国の芸能界では、数年前からSNSでの書き込みを苦にしたと思われる芸能人の自殺が相次いでいます。
日本の芸能界とは異なる過大なストレスが韓国芸能界にはある、そんなふうに他人ごとに分析している場合ではないという出来事が、2020年に日本でも起きました。
テレビ番組出演をきっかけにSNSでの誹謗中傷にさらされていた女性が、命を絶ったのです。
SNSでの誹謗中傷に対しては、現在の日本では明確な対策がありません。
SNSは、誰もが発信媒体を持ち、自由に発言ができ、対抗手段(反論の機会)もSNS上で保証されているからという理由です。
自由な言論の場は、憲法21条(表現の自由)で保証されており、むやみに公権力が干渉をすることは、表現の萎縮を招くことにもつながります。
深刻な被害は放置できない
ただし、昨今のSNSは、「炎上」という言葉に表れている通り、ターゲットを見つけては、その人を徹底的に攻撃するという集団リンチ、いじめの様を呈していることも事実です。
もちろん、「死ね」「殺す」などの発言には、対抗手段はあります。
このような発言は、名誉毀損罪、脅迫罪、侮辱罪などに該当する可能性があります。
しかし、現在の日本の法制度では、発信者を特定するまでに時間や費用がかかるため、言われっぱなしで泣き寝入りをする方が多いという現実があるのです。
そこで総務省は、先の事件も受け、インターネット上で誹謗中傷を受けた被害者が交流サイト(SNS)運営会社などに請求できる投稿者情報に、電話番号を追加するなどの省令を改正する方針を示しました。
現行制度では、投稿者に関する情報開示請求は氏名や住所、IPアドレス(ネット上の住所)などに限られますが、電話番号が判明すれば、携帯電話会社に直接投稿者の情報を照会でき、発信者にたどり着くことが容易になり、被害者が加害者に対し、損害賠償を請求しやすくなるのです。
SNSは一部の人や組織に限られていた表現手段を、広く開放したという点ではとても有益なメディアである反面、誤情報のあふれているメディアでもあります。
情報の選択の仕方を誤ると、意図せずに自分自身が加害者となる危険があります。
リツイートについても注意が必要です。
誤情報を拡散したり、執拗に誹謗中傷を繰り返せば、被害者から名誉毀損罪などで訴えられる可能性は十分にあります。
みんながリツイートしていたから、という言い訳も通用しません。
SNSとの付き合い方を1人ひとりが考えよう
そしてSNS の投稿は、匿名が保証されるものではなく、段階を経れば発信者が特定できるということも忘れてはいけません。
匿名だからと自分のストレス発散のために、誰かを攻撃するような投稿をしている方は、いますぐSNSとの付き合い方を改めましょう。
SNS の利点を生かすも、欠点を助長させるも、利用者である私たちのモラルにかかっています。
法律で規制されていないから何をしてもよいというのではなく、1人ひとりが、「自分がされて嫌なことは他人にもしない」という当たり前のことを実践できる世の中であってほしいですね。
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