資産運用と節約の2つでゆとりの老後を実現しよう
ゆとりのある老後を送るために、今から準備していく方法を考えます。
定年後も仕事を続けるなど色々な考え方がありますが、ここでは方法としては「資産運用」と「節約」の2種類を提案しようと思います。
2.資産運用の考え方
2-1 30~40代ならまだしも...50代から資産運用を始めても遅くない?
まず結論、私の考えとしては、投資に興味があるなら、50歳からでも始めてみるのがいいと思います。
たしかに投資は短期的な売買を行うトレードなどの投機とは違い、10年、15年、20年と長い時間をかけて値上がり益を狙うものなので、50歳の方は若い人に比べて、どうしても運用期間が短くなってしまう点で悩みがちです。
しかし、今は人生100年時代とも言いますし、もしかしたら思いのほか運用を長く続けられることもあるかもしれません。
なぜ、運用期間は長い方がいいのかというと、以下の資料を見てください。
これは1950年~2020年で米国株式の代表的な株価指数S&P500に投資した時の期間と年間の平均リターンの幅です。
ようするに、米国を代表する企業500社に分散投資をした際、運用期間の違いによって、年平均にてどれほど利益が変わってくるかを示すものだと思えばいいでしょう。
期間1年だと-38.5~+45.0%と、大きく利益が出た年もあれば大きく損した年もありましたが、15年運用すれば+0.9%~+15.6%と、年平均のリターンの幅が小さくなり、どの時期に投資してもプラスになりました。
(出所)Yahoo!ファイナンスより筆者作成。対象期間は1950~2020年で、S&P500の各年の年末終値を使用
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
もちろん過去のデータなので未来の保証にはなりませんが、仮に50歳で投資を始めて、老後の年金資金作りを目的に65歳まで運用を続ければ、約15年間と比較的長い運用期間が確保できるので、利益もそれなりに期待できるでしょう。
こうして考えると、50歳から投資を始めても、けっして遅すぎることはないかと思います。
2-2 退職金の運用で失敗しないための経験にもなる
50歳から投資を始めるその他のメリットとしては、今後、定年退職して受け取った退職金の運用で失敗しないための経験を積める点もあるでしょう。
退職金を受け取ると、銀行や証券会社などの金融機関から、資産運用の案内が届くことがあります。
このような案内に掲載されている商品は手数料が比較的高いケースが多いため、そもそもあまりおすすめではないのですが、金融機関から提案されるがまま、退職金として受け取った資金をまとめて運用に回してしまう人も多いです。
その結果、株価の暴落などの際に、自分の予想以上の損失を抱えてしまい、怖くなって投資をやめてしまう、という話をよく聞きます。
この失敗例における問題点としては、そもそもいきなり大きな資金で始めてしまったことや、自身であまり調べずに金融機関任せで運用してしまった点などが挙げられるでしょう。
2-3 最初は少額投資から始めよう
では、実際に50代で投資を始める際の注意点もお話しします。
先ほどの退職金の失敗例にも繋がりますが、最初は月1,000円など、少額から投資を始めることを心がけましょう。
なぜ少額から始めるのがいいかと言うと、損失で考えた時に、精神的に余裕を持ちやすいというメリットがあるからです。
仮に100万円投資したとして、暴落が来て30%のマイナスになった際は30万円もの含み損が出てしまうと、不安に感じて相場がやたら気になってしまう人も多いはずです。
最初にお話しした通り、投資はとにかく長く続けることが大事なのですが、怖くなって運用をやめてしまう人も出てくるでしょう。
一方、1,000円の投資なら、30%のマイナスでも300円の損失で済むため、比較的落ち着いて運用を続けられるはずです。
このように投資額を少なくすれば、それだけ金額面での損失を抑えることができて精神的にも余裕を持ちやすいので、投資初心者は少額投資から始めるのがおすすめです。
投資額を増やせば、それだけ大きくプラスになるかもしれないのですが、反対に大きくマイナスになる恐れもあるため、最初は小さく始めてみるのを心がけましょう。
その後、運用に慣れてきたところで投資額を増やすことを検討してみてください。
50歳からでも投資を始めるのはけっして遅くありませんので、興味があれば月数千円のおこづかい程度からぜひ始めてみてください。
3.資産運用「つみたてNISA」
3-1 そもそもNISAとは?
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
NISAとは、Nippon Individual Savings Accountのことで、少額投資非課税制度とも言われますが、投資の利益に税金がかからないお得な口座だと思ってください。
たとえば利益に税金がかかる課税口座で、株式などの金融商品を買って、値上がりにより売却時に10万円の利益が出たとします。
すると本来、投資の利益には約20%の税金がかかるため、2万円が差し引かれて、手元に残るのは8万円になってしまいます。
しかしNISA口座だと利益に税金がかからず、10万円がまるまる受け取れるので、課税口座よりも優先して使うのがおすすめです。
3-2 つみたてNISAの特徴は?
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
NISA口座は現状、一般NISA、つみたてNISA、そして未成年者向けのジュニアNISAがあります。
つみたてNISAのみ詳しく紹介しておくと、非課税枠(1月1日から12月31日までの1年間で投資できる上限額)は40万円とやや小さいものの、非課税期間(利益に税金がかからず運用できる期間)は、金融商品を購入した年から数えて最長20年と長いのが最大のメリットです。
また、つみたてNISAで選べる商品は、低コストなど金融庁が定めた一定の条件を満たした190本程度の投資信託(様々な株式や債券などが袋詰めになった商品)などに厳選されているので、初心者でも選びやすいのも魅力です。
買付方法については、積立投資に限定されていますが、積立投資は相場の下落時に安い価格で買うことができて精神的な余裕を持ちやすいので、投資初心者にもピッタリです。
ちなみに、非課税枠40万円を12カ月で割った約33,000円が、つみたてNISAにおける毎月の積立額の上限としてよく使われるので、覚えておくといいでしょう。
3-3 つみたてNISAで老後資金2,000万円も夢じゃない
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
つみたてNISAは非課税期間が最長20年と長いのが最大のメリットとお話ししましたが、もう少し具体的に解説します。
たとえばつみたてNISA口座で2021年の1月1日から12月31日までに積立をした投資信託は、2040年12月31日まで非課税期間が続いていきます。
また2022年に積立をした投資信託は2041年まで非課税期間が続くので、毎年積立を続けると非課税期間の終了は1年ずつズレていくと思ってください。
仮に年間40万円、運用期間20年、運用利回り年5%としたら、5年目は元本200万円に対してまだ約27万円の利益ですが、20年目には複利効果もあって元本800万円に対して約558万円もの利益に増えます。
ただ実際はここまで綺麗には増えず、時には暴落してマイナスになることもあるため、上下に値動きしながら長い目で見て複利が効いていくと思えばいいでしょう。
つみたてNISAを夫婦それぞれで月3.3万円ずつ満額積立した場合は、元本と利益合わせて約2,700万円もの資産になるので、今のうちからつみたてNISAを始めておくだけで、老後資金2,000万円の用意も夢ではないことが分かります。
なお、つみたてNISA口座でよく選ばれている銘柄は、将来的な値上がりが期待できる全世界株式や米国株式の投資信託です。
そのため長期運用を前提に、低コストで人気のeMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)やeMAXIS Slim米国株式(S&P500)などをまず検討してみるのがよろしいかと思います。
4.資産運用「iDeCo」
4-1 そもそもiDeCoとは?
iDeCoとは個人型確定拠出年金の愛称ですが、個人型確定拠出年金は、「個人型」と「確定拠出」と「年金」の3つの言葉に分けると理解しやすいです。
まず「個人型」とは、国や企業に頼るのではなく、自分で用意するものだと思ってください。
次に「確定拠出」とは、掛金の額は決まっているけど、運用成績によって将来受け取る額が変わるという意味です。反対に将来もらえる額が決まっているのは、確定給付と言います。
最後に「年金」とは、60歳以降に受け取れる年金制度になります。
ただ年金とは言いつつも、iDeCoは申込時に専用の口座を開設するため、金融商品を入れる箱のイメージを持っておくと分かりやすいでしょう。
つまりiDeCoとは、「個人が掛金を出して、自ら金融商品を選んで運用を行い、老後資金を作る年金の箱」なんです。
年金制度は3階建てになっており、1階は国の公的年金、2階は会社が用意する企業年金、そして3階は自分で用意する個人年金で、iDeCoもここに含まれます。
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
iDeCoの掛金は、月5,000円以上1,000円単位で設定できますが、公的年金の被保険者種別やお勤め先の企業年金制度の加入状況により上限額が決まります。
たとえば第1号被保険者と呼ばれる自営業者の方は月6.8万円、第2号被保険者と呼ばれる会社員などの方は会社に企業年金がない場合だと月2.3万円、第3号被保険者と呼ばれる専業主婦(夫)の方は月2.3万円が上限です。
掛金額の増減も可能で、掛金自体を止めることもできます。
またiDeCoに加入する場合、iDeCoを取り扱う金融機関(運営管理機関)を選ぶ必要がありますが、この金融機関選びは特に重要で、理由は手数料の違いがあります。
iDeCoに関する手数料はいくつか種類がありますが、掛金を出して運用する際には、支払先に応じて3つの手数料が毎月かかります。
iDeCoの実施機関である国民年金基金連合会(月105円)と、iDeCoの資産を管理する信託銀行(月66円)への手数料は、どの金融機関でも基本変わりません。
ただ金融機関へ支払う運営管理手数料は、大手銀行などでは月300円程度かかるところもあります。
仮に月300円の運営管理手数料を30年支払ったとすると、108,000円もの費用になりますが、楽天証券やSBI証券などのネット証券であれば、この運営管理手数料はかからないので、コストを大幅に抑えることができます。
最後に、iDeCoの運用商品についてもお話ししておくと、大きく分けて元本確保型商品と投資信託の2つに分類されます。
元本確保型商品とはその名の通り、元本が確保されている運用商品のことで、定期預金や保険商品などがあります。
投資信託については金融機関ごとにラインナップが異なりますが、つみたてNISAと同じように長期運用が前提となるため、やはり全世界株式や米国株式の投資信託が人気なので、検討してみるといいでしょう。
4-2 iDeCoのメリット
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
iDeCoには2つの税制メリットがあり、まず通常であれば、運用で得た利益の約20%は税金として納めなくてはいけませんが、iDeCoはNISA制度と同様で非課税となります。
ただし、つみたてNISAの非課税期間は積立を始めた年から最長20年と決まっていますが、iDeCoの非課税期間には制限がありません。
仮に30歳からiDeCo口座で投資信託を購入して60歳まで保有した場合、30年間は非課税で運用できるため、早く始めるほど非課税期間が長くなります。
さらにiDeCoは掛金が全額、所得控除になる大きなメリットがあります。
控除とは一定の金額を差し引くことで、所得控除は個人の所得税や住民税を計算する際、その人の所得から一定額を差し引き、税金の負担を軽くすることを指します。
少し細かいのですが、所得控除には基礎控除や配偶者控除、医療費控除など様々な種類があり、iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除に該当します。
要するにiDeCoの掛金で所得控除が増えれば課税所得は減って、所得税と住民税の負担を減らせるという認識でOKです。
仮に毎月の掛金が10,000円の場合、年間の掛金120,000円に所得税10%、住民税10%をそれぞれ掛けると、合計で年間24,000円もの節税になります。
所得税の税率は課税所得により決まるので、課税所得が多い人ほどiDeCoにおける節税効果は大きくなります。
一方、パートで働く主婦の方などは課税所得が比較的少ないため、節税効果が小さくなってしまう点は注意しましょう。
4-3 iDeCoの注意点
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
ただしiDeCoは決してメリットばかりではなく、2つの注意点もあります。
まずiDeCoは年金制度のため、原則60歳になるまで年金資産(掛金と運用益)を引き出すことはできません。
これを資金ロックと言いますが、仮にiDeCoを始めた後に子どもが生まれて、教育資金や住宅購入資金などでお金が必要になったとしても、iDeCoで運用しているお金を途中解約することはできません。
このようにiDeCoはライフステージの変化による支出に対応できない点はじゅうぶん気を付ける必要があり、将来の資産設計をきちんと行った上で始めることが大切です。
またiDeCoは受け取る方法で、税金が変わるので注意が必要です。
iDeCoは運用益が非課税で掛金も所得控除になりますが、60歳以降に年金資産を受け取る際、税金がかかる仕組みとなっています。
この受け取り時の課税はやや複雑で、受け取り方によって税金の計算方法が異なります。
iDeCoは一時金として一括で受け取るか、年金として分割で受け取るか、もしくは金融機関によっては一時金と年金の併用で受け取るかを選択できます。
この話はかなり複雑なのですが、ひとまずは一時金として受け取る場合は退職所得となり、退職所得控除によって税金負担は大きく軽減されることを知っておけばよろしいかと思います。
ここまで見てお分かりの通り、iDeCoはやや複雑な制度となっているので、つみたてNISAとどちらを利用するか迷ったら、まずは比較的シンプルで分かりやすいつみたてNISAから始めるのがいいでしょう。
4-4 つみたてNISAとiDeCoはどちらを選ぶべき?
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
iDeCoとつみたてNISAの比較をまとめた上で、どちらを選ぶべきかをお話しします。
iDeCoは掛金が全額所得控除になるという、つみたてNISAにはない税制メリットがありますが、受け取り時に課税され、口座管理などの手数料もかかるためやや複雑な制度となっています。
また、iDeCoは60歳まで引き出せない資金ロックがありますが、つみたてNISAはいつでも引き出しが可能です。
以上を踏まえて、所得税や住民税の負担を少しでも軽減したい人、お金をすぐ引き出せると使ってしまわないか不安なので、強制的に老後資金を用意していきたい人はiDeCoを検討するといいでしょう。
一方、特に20代から30代の方などで、老後資金以外にも教育資金や住宅購入資金などを目的とした資産形成に利用したい人であれば、つみたてNISAが向いていると言えます。
どちらを利用するか迷ったら、まずは比較的シンプルで分かりやすく、引き出しの制限がないつみたてNISAから始めるのがいいかと思いますが、ご自身の年齢や資産形成の目的などに合わせて使い分けてみてください。