もうすぐ60代を迎えるエッセイストの岸本葉子さん。これからの人生のために、さまざまな人の話を聞き、人生の終盤に訪れるかもしれない「ひとり老後」をちょっと早めに考えました。そんな岸本さんの著書『ひとり老後、賢く楽しむ』(文響社)から、誰にでも訪れるかもしれない「老後の一人暮らし」を上手に楽しく過ごすヒントをご紹介します。
何歳から施設に入りたいと思っていますか
医療や介護の点でも、私の見学に行った施設はかなりよいと思えました。
残る問題は、一つにはやはり費用、もう一つは入るタイミングです。
二つは実は関連していますが、それは後から気づくことで、タイミングそのものをまずは考えました。
安心が買えるからと言って、元気なうちから入りたいかというと、正直そこまでの決断はできそうになかったです。
ではいったいいつくらい?
75歳以上が後期高齢者といわれますが、実際には85歳以上の超高齢者になってからかなという印象でした。
むろん年齢だけでは語れません。
体の状況は大きいです。
70代でも健康不安が強ければ入りたくなるかもしれないし、そうでなければ85歳でも、介護保険を利用しながら家に住み続けたいかもしれません。
見学した施設は、屋上を除き居室のあるのは3階分です。
1階が比較的自立して暮らしている方々。
2階が医療行為の必要な方。
3階が常時介護が必要な方でした。
1階は人がいらっしゃるので、中まで見せていただいたのは2階、3階でした。
包み隠さず言えば、医療行為や介護を受けるのは、シニア一般の姿というよりは、衰えが進んだ状況だという印象です。
自分の状況からは、もう一段階、二段階あるというか、今の私が入居を現実的なこととして検討するのは、早すぎると思いました。
では自立型の1階に住んで、早くから安心を買えばいいか?
ひとつの理想ではあるけれども、そこで関わってくるのが費用の問題です。
月々20万前後の費用が、入居一時金とは別に必要と考えると、仮に20万として1年住めば240万。
4年でもう1000万近くなってしまう。
あんまり早く入りすぎたら、ほんとうに必要なときに資金が尽きてしまいそう。
自分の資金状況ではできないと思いました。
気持ちとしても、収入がこれからは少なくなっていくときに、年に240万ずつ貯金をとり崩していくのは、心理的なハードルが高いです。
費用以外の問題もあります。
自立型とはいえどうしても部屋の広さは限られて、家具を持ち込めるとしてもわずかでしょう。
扉や床、壁紙なども自分の選んだものでは、当然ながらなくなってしまう。
そこのつらさはありそうです。
なんとかひとりでやっていけるうちから、具合が悪くなったときの不安のために、好きなテイストに囲まれた暮らしを諦められるかというと、まだできない気持がしました。
今気になるポイントと、年をとってから気になるポイントは違う
施設内の雰囲気はよかったと思います。
ひとことでいえば明るくて、少人数のせいかいわゆる顔の見える関係でアットホーム。
清潔感があって、日当たりもよく、屋上庭園は癒やしと開放感がある。
でも立地は、今の私からするとつらいかもと思いました。
街からは離れてしまうので、今みたいにちょっと自転車に乗って――自転車に乗るっていう設定からして、いかに老後がまだリアルでないかっていう感じですが――自転車にちょっと乗っていけば商店街に行けて、ちょっとした輸入菓子を買うとか、かわいらしい雑貨で目の保養をするとか、服を買うとか、そういう街の暮らしは遠のきます。
もちろん、バスの時刻表に合わせて出かけ、お金があるならタクシーを呼んで、必要だったら付き添いを頼んで出かけることはできるけど、気軽に楽しむ感じではなくなりそうです。
今の家は、駅からそう近くはないけれど、自転車なら5分、自転車に乗れなくなっても、今なら15分で行けるところをゆっくりゆっくり30 分かけて歩いて行ける。
雑貨屋さんの前で立ち止まったり、疲れたら喫茶店に寄ったりして休み休みしながらでも、できる。
俗っぽい楽しみのようだけれど、そういう状況は、まだ手放したくないと思いました。
そんなことを総合すると、施設の検討がリアルな段階ではないなと。
検討が必要になるときは、気になるポイントがまったく違ってくるだろうと思います。
今、あたりをつけておいたところで、36歳のとき老後のためにと天井が高く庭つきの家を選んでしまったのと、同じことが生じかねない。
今の自分の心配するポイントは、ずれているらしい。
それを知った点でも、見学してよかったです。
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70代から90代の一人で暮らす女性たちの生活から見えてきたひとり老後のコツや楽しみ方が全7章で紹介されています