70代を迎え、一人暮らし歴40年を超える生活研究家の阿部絢子さん。「一人暮らしをようやく面白がれるようになった」とつづられた阿部さん著書『ひとりサイズで、気ままに暮らす』(大和書房)から、この先の人生できっと訪れる「一人暮らしを楽しむコツ」をご紹介します。
老人施設見学で気がついた
ひとり暮らしでは、頼るべき家族も少ない。
私の場合は、姉妹すべてひとり身なので、頼れる若者もいない。
とすれば自分の最後も自分での始末となる。
誰もが望んでいる「ピンピンコロリ」だが、そう簡単ではない。
必ず病がやってきて、長くなるか短いかは、人それぞれ予想もつかない。
年を取ってくると、一番の気がかりは病だ。
特にひとり暮らしはこれが問題だ。
アパート生活をしていた50代の頃、そのアパートには8世帯いて、みなひとり暮らしだった。
ある朝、その内のひとりが出勤してこないと、会社の人が訪ねてきて、初めて脳出血で亡くなったのを発見した。
彼女は真面目な人で、毎日キチンと出社していたから、勤め先の方が不審に思って来てくれたのだ。
私のような、ひとり暮らし、フリーランス、まあまあ元気、声をかけられることがないといった人では、気がついてくれる人など少ないはずだ。
この一件以来、アッサリと死ぬのはいいが、脳出血や脳梗塞で倒れたら、誰が発見してくれるのか?これが問題だと思った。
気づかれないとしたら、気づかれる策を立てるよりほかに方法はない、と考えるようになった。
それに、病になれば病院へとなるが、昨今の病院では入院は3か月までだ。
その後については自分で探さなければならない。
ひとりで病気となってしまえば、転院先の探しようもないかもしれない。
いろいろ考えると、やっぱり施設入所がいい、と私は思う。
学生寮などと同じだと考えれば、むしろ学生のときより楽しいかもしれないとも思った。
そこで、まずは老人施設を見学しようと思っていた矢先に、母の施設入所となった。
あるケアマネージャーは、「施設とは牢獄のような所」と表現したが、これも考え方は人それぞれだ。
母を見ていると、行政管理施設なので一面は牢獄かもしれないが、別面から見れば自由もあり、ゆったりとしている。
施設の目配り、気配り、心配りは、なかなかのものだと私は見ている。
こうした例もあれば、ある先輩が入居している私営施設は至れり尽くせりで、先輩は元編集者の腕を活かして、機関誌編集に携わっているという。
つまり、施設といってもさまざまである。
経済的余裕があれば、広い部屋を確保できるが、月の出費も比例してかかってくる。
私がざっと調べてみると、都内の場合、最低でも15~30万の幅があった。
毎月の費用が高くない所は、人員や病の対処設備の整い方が低く、室内スペースもせまい。
母の施設は地方にあって、築40年、軽費であるので病気になったときに対処する設備はない。
訪問での医療もなく、自分で診察や治療に通わねばならない。
だが、食事は毎日全員が食堂で食べる。
入浴日も決まっている。
イベントが盛りだくさんで、必ず誰かが見守ってくれている。
97歳の母がまあまあ生活していけるのも、こうした見守りと助けがあってなのだ。
しかし、一つ難点は、やはり室内空間がとてもせまいこと。
6畳+2畳ほどのキッチンだけで、6畳にベッドを置くと、残りの空間は床面積の30%もない。
もし私がここで生活するとなると、持ちモノは、衣類、寝具、筆記用具などだけにしなければならない。
すでに90歳を過ぎている母はそれで充分だった。
つまり、施設入所を目指すには、トランク1個分ほどの荷物にする必要があると思った。
経済的に余裕のある人なら、広いスペースの施設に入所可能だが、普通は母のような施設になる可能性が高いだろう。
究極に必要なモノに絞って、トランク1個分ほどにしなければいけない、というわけだ。
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