70代を迎え、一人暮らし歴40年を超える生活研究家の阿部絢子さん。「一人暮らしをようやく面白がれるようになった」とつづられた阿部さん著書『ひとりサイズで、気ままに暮らす』(大和書房)から、この先の人生できっと訪れる「一人暮らしを楽しむコツ」をご紹介します。
健康オタクになりすぎない
70歳も過ぎれば、身体のどこかが痛くなる、歩き過ぎて足がひきつる、体調が悪くなる、夜寝られない......などということがあって当たり前だ。
若いときと同じくらい元気ではいられないのだ。
それは身体機能が衰えるためで、年相応なのだが、つい人は年相応を忘れ、なぜ足腰のここが痛いのだろう?と昔を追いかけ、昔の健康を求めすぎてしまう。
健康はこれからの暮らしに大切な要因だが、寝ても覚めても健康のことばかり考え、追いかけ、健康オタクになってはつまらない。
特に、健康にいいからという理由で同じ食材ばかりを選んで食べる、反対に健康によくないからとおいしくても食べないなど、健康だけをものさしにした食生活ではどうだろうか。
私は、健康ばかりに気をつかうより、自分の身体に聞いた食生活をしたほうがいいと思っている。
たとえば、今日の夕食に食べたいものは何だろう?
いま思い浮かぶ食べたいものは何か?など、身体に聞いてみる。
すると、今日の調子で食べたいものが浮かんでくる。
それが一番身体にいい食事ではないだろうか。
長寿と言われる方がお肉を召し上がっているからと、マネしてお肉ばかりを食べるのもどうかと思う。
そもそも長寿と言われる方がいつもお肉とは限らない。
魚、卵、乳製品、豆製品、野菜などバランスよく召し上がっているから長寿が保たれているのだと思う。
見習って参考にするのはいいが、土台、人は一人一人身体も違えば生き方も違い、好みも違うのだから、マネばかりしても始まらない。
健康志向はいいのだが、健康のバロメーターなども人それぞれ。
だから健康オタクではなく、自分流の食生活を取り入れていくことだ。
大切なのは、食事をおろそかにしない心がけを持つことだ。
食事なんてなんでもいいというのでは困る。
食事をおろそかにしていると、身体は調子を崩してくる。
調子が崩れると、風邪、アレルギーなど、免疫力が低下してくる。
ここに病が入り込み、長期化することもあるだろう。
年齢だけが体調を悪くするのではない。
食事は大切だ。
食事をおろそかにすることが、体調を低下させる。
食べたいものは身体に問い、バランスよく献立を組んで、楽しんで食べる。
元気な人ほど食事を大切にしている。
何を食べているかではなく、その心がけを持ち続けることが重要なのだ。
ここを間違えたくない。
食べたいものは自分で作る
食生活が大切とはいっても、自分で作ることができないと外食や中食に任せることになってしまう。
できれば男性も、女性も、なるべく自分で料理はできたほうがいい。
いまでは、コンビニ、スーパー、ファーストフード、デパ地下、惣菜店など、いろいろな形で食品が販売され、自分で料理を作らなくても困ることはほとんどない。
これらはうまく活用すれば、食事のバランスを考えて不足分を補うためや、ひとり分を作るのではもったいないときなどにとても便利だ。
とはいえ、自分の好みの味とは違う、塩分や糖分の調節が利かない、量が少なすぎる多すぎるなどと、なかなか思い通りではないこともある。
かくいう私も、常備菜のような普段着の料理がちゃんと作れるようになったのは、30代の終わり頃になってからだ。
それまでは単品主義だった。
コロッケ、春巻き、トンカツといった一品入魂の料理は作れるが、普段着料理はあまり作れなかった。
その頃は、かなり頻繁に友人が集まったり、友人宅に行ったりしていたので、こうした持ち寄り料理ばかり作っていたし、またこれが「料理」だとも思っていた。
でも肝心の普段食べるような、肉じゃが、ひじき煮、ほうれん草の胡麻和え、ゴボウのきんぴら、かぼちゃ煮といった料理ができなかったのである。
たまに食べたいと思っても、当時はコンビニ、惣菜店などもなく、自分で作るよりほかに方法はなかったが、私はなぜか一品もてなし料理にばかり挑戦して、普段着料理は後回しにしていたのだ。
40代にもなると、さすがに普段着料理はできませんとは言えなくなってきた。
それに、自分でもそうした普段着料理を食べるのが好きになってきたのだ。
しかたなく、それらに挑戦し始めたのが40代になってから。
きんぴらが好きなので、とにかくまずは一品入魂でそればかり料理し続けた。
次第にできるようになると、次は肉じゃがといったように、一品ずつ挑戦した。料理は作らないと腕は上がらず、おいしくもできない。
運がよかったのは、ちょうどその頃参加させてもらった会で、料理当番があったことだ。
年に数回、当番がまわってきて、十数人分の料理を作らなければならず、そのためにも懸命にいろいろな料理に挑戦し続けた。
成功もあったが、失敗も数知れず。
おかげで腕は次第に上がっていった。
こうした機会があって、ますます料理がおもしろくなり、食べることへの興味が湧いていき、料理を楽しんでできるようになっていた。
いまでも、食べたいものを思い浮かべ、時間があるときには自分で作っている。
たとえば、鮭の粕汁、タケノコの肉はさみ揚げ、ブロッコリーの白和え、お稲荷さんなど。
作っていると、時間を忘れ料理に没頭できるから、楽しいときにもなっている。
気取らず自分らしく「ひとりサイズで、気ままに暮らす」記事リストを見る
生活、心構え、老い支度など5つの視点から、著者の経験をもとにした一人暮らしのコツが提案されています