末期がんに侵された僕を...妻はどう感じていたのだろう?『僕は、死なない。』刀根 健さんインタビュー

2017年、「肺がんステージ4」から奇跡の生還を遂げた刀根健さん。その壮絶な体験をつづった著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)の連載配信は、毎日が発見ネットで大反響となりました。3年前、末期がんと宣告され「生きる」ためにもがき続けたエピソードの裏に、どんな思いがあったのか、家族はどう感じていたのか、そして刀根さんの現在は――。そんな刀根さんの特別インタビューを、3週連続でお届けします。第2回は、刀根さんが闘病生活中の「ご家族」のエピソードについて。

前回の記事:「肺がんステージ4」奇跡の生還から3年。『僕は、死なない。』刀根 健さんの現在は...⁉

末期がんに侵された僕を...妻はどう感じていたのだろう?『僕は、死なない。』刀根 健さんインタビュー _J004961.jpgステージ4の肺がんから生還した刀根健さん。インタビューはオンラインで実施。当日は、事前に奥様に聞き取ったメモを用意してくださいました

夫から「肺がんステージ4」を告げられた妻の気持ちは...

――作中では、治療に関して刀根さんの気持ちを最優先に考えて見守る奥さまの姿が印象的でした。がんを告げた時、どんな気持ちだったのでしょう?

妻に聞いてみたのですが「よく思い出せない」とのことなんです。

「ただ涙が出た」と。

どうしよう、どうなっちゃうんだろう...とは思ったけど、「生存確率」とか意味がわからず、ああ、そうなんだ...と。

号泣もしなかったし、夫を慰めもしなかった。そう言っていました。

妻はその頃、週5日パートに出て忙しくしていましたし、夫が末期がんに侵されている、という現実を受け止めることでいっぱいだったんだと思います。

関連記事:妻は...どんな反応をするのだろう。「肺がん、ステージ4」妻への報告/僕は、死なない(5)

――奥様は「夫のがん」をどこで実感されたのでしょう?

PET検査(がんを見つけるための最新の検査)が特にショックだった、と言っていました。

僕の体がスキャンされた画像に「点々がたくさんあった」と。

びっしりの「点々」を見て、恐怖に満たされて...じんわり涙が出てきたそうです。

――代替医療でどんどん体調が悪くなっていく刀根さんを見て、実際のところはどう感じられていたのでしょうか?

僕が代替医療(がん治療においては、手術・放射線・抗がん剤の三大標準治療以外の治療法のこと)を選んだことに関しては、妻も賛成してくれていました。

最初の大学病院でのドクターたちの投げやりな対応も、標準治療への不信感に繋がっていたのだと思います。

実は、妻も抗がん剤治療に反対だったようなんです。

元々僕が体が強いほうではなかったので「夫が強い薬に負けてしまうのではないか」と心配だった、と。

そういったこともあり、いろいろな代替医療を調べては、一緒に話を聞きに行きました。

本を取り寄せたり、図書館で読んでみたりして、紹介してくれたこともありました。

妻は「振り返ると、もう少し情報を集められたかも」と言っていましたが(笑)。

代替医療のお医者さんたちはとても親切で、初診は無料で話を聞いてくれたり、さまざまな提案をしてくれたので、そういった意味でもよかったです。

――奥さまも賛成したうえで、積極的に関わってくださったんですね。

はい。

ただ、代替医療の中には、それをやってかえって具合が悪くなったものもいくつかありました。

実際、その治療中、体調は悪くなっていく一方でしたので、妻は「なんで(明らかに悪化していることを)一生懸命にやるんだ!」と僕にも、それを勧めた先生にも怒っていたことがあったそうです。

決して僕には口にしなかったですけれど。

――そうですよね...。体重が11kgも減ると、見た目の変化も大きかったと思います。かなり不安なお気持ちだったのでは?

妻に心配をかけたくなかったので、妻に痛みや血痰などの病状を訴えたり、弱音を吐くことはしませんでした。

でも...妻は僕の変化に気づいていたようです。

いつも「大丈夫」というけれど、大丈夫なわけがない、と(笑)。

特に僕の声が枯れ始めたときには、がんが喉に転移したんじゃないか、と本当に心配したそうです。

でも、「僕が決して自分から弱音を吐くことはない」というのも、妻はわかっているんですよ。

僕がとてつもなく「頑固」だって(笑)。

とはいえ、妻は妻で「自分が注意しても聞かないし、私は夫の横にいて何になるんだろう。具合が悪くなる姿を見ていることしかできないのか」と虚しい思いがあった、と。

――夫は絶対治る、と思っていたのでしょうか? それとも...

がんについては、「必ず治る」とも「もうダメだ」とも思っていなかったようです。

ただただ、必死だった、と。

でも、もし僕が死んじゃったら「マンション売らなきゃ...」「子供の学費をどうしよう」などは考えていたそうです。

――夫婦の関係は、今どのように変わりましたか?

前より大人しくなったとはいえ、暴走しがちな僕を妻が見張ってくれています。

妻も「私の言うことをよく聞いてくれるようになった」と(笑)。

体を冷やさないようにするとか、食事の面でも「栄養療法」という炭水化物や糖質をなるべくカットした野菜中心の食事を用意してくれます。

あとは妻が言うことや、妻からの注意を僕がよく聞くようになりましたね(笑)。

「がん」という出来事を通して、お互いがお互いのことをもっとよく知って、「近づいた」という感じがします。

今の僕は...「妻がいなければ生きていなかった」と本気で思っていますから。

もう僕を超えたな...と思った長男の言葉

――息子さんが、父である刀根さんが「自身の弱さ」を伝えた時、「知ってたよ」と話すシーンが印象的です。

息子たちにとって、がんになる前の僕のイメージは「ワンマンで、強くて、エネルギッシュ」だったようです。

でも、がんになってからは「そうではない部分」を見せられることが多くなっていきました。

特に長男は察するのが上手な子なので、僕の「弱さ」も実はバレていたという感じですね。

関連記事:「やれることは全部やったけど、ダメだった」がんへの完敗を認めた僕に「訪れたもの」/僕は、死なない。(35)

僕が自分の父と話をして涙を思い切り流したときも、息子はそばにいてくれました。

――エネルギッシュな父親というイメージであった刀根さんが、息子さんの前で涙を流したとき、「恥じらい」のような気持ちはあったんでしょうか?

いいえ。

もう、そういったものはなかったです。

僕自身、自分のありのままをさらけ出すことが彼にとってもよいだろうと思っていたので、自分の「弱さ」を息子に見られることにためらいはありませんでした。

長男は僕のことを、「昔は、熱い鉄の塊みたいな人でしたが、今は枯れ木のように軽い人です」と言っています(笑)。

――枯れ木、ですか...?

はい。フラットで軽いということのようです(笑)

以前と比べて、息子との距離感は確実に近づいたと思いますね。

――がん仲間である「さおりちゃん」から、お父さんに対する「感情」を吐き出すようにアドバイスをもらい実行されていましたね。その後、お父様との関係はどうですか?

もちろん、関係性は変わりましたね。

とはいえ、父は相変わらずなんですが、僕自身が「がん」を経て変わった部分が大きいので、父が何を言ってもあまり気にしなくなりました。

父はおそらく僕の本を読んでいないと思いますが、僕はいつでも「お父さんありがとう」という気持ちでいっぱいです(笑)。

取材・文/斎藤諒子

【次回予告】
刀根さんが語る「がんになる前」と「がんになったあと」の世界観
※インタビュー第3回は2020年8月15日(土)20:30公開予定です。お楽しみに!

『僕は、死なない。』を読んでみる:「肺がんです。ステージ4の」50歳の僕への...あまりに生々しい「宣告」/僕は、死なない。(1)

【まとめ読み】『僕は、死なない。』記事リスト
末期がんに侵された僕を...妻はどう感じていたのだろう?『僕は、死なない。』刀根 健さんインタビュー shoei001.jpg50歳で突然「肺がん、ステージ4」を宣告された著者。1年生存率は約30%という状況から、ひたすらポジティブに、時にくじけそうになりながらも、もがき続ける姿をつづった実話。がんが教えてくれたこととして当時を振り返る第2部も必読です。

 

刀根 健(とね・たけし)

1966年、千葉県出身。OFFICE LEELA(オフィスリーラ)代表。東京電機大学理工学部卒業後、大手商社を経て、教育系企業に。その後、人気講師として活躍。ボクシングジムのトレーナーとしてもプロボクサーの指導・育成を行ない、3名の日本ランカーを育てる。2016年9月1日に肺がん(ステージ4)が発覚。翌年6月に新たに脳転移が見つかり、さらに両眼、左右の肺、肺から首のリンパ、肝臓、左右の腎臓、脾臓、全身の骨に転移が見つかるが、1カ月の入院を経て奇跡的に回復。現在は、講演や執筆など活動を行なっている。

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『僕は、死なない。 全身末期がんから生還してわかった人生に奇跡を起こすサレンダーの法則』

(刀根 健/SBクリエイティブ)

2016年9月、心理学の人気講師をしていた著者は、突然、肺がん告知を受ける。それも一番深刻なステージ4。それでも「絶対に生き残る」「完治する」と決意し、あらゆる代替医療、民間療法を試みるが…。当時50歳だった著者の葛藤がストレートに伝わってくる、ドキドキと感動の詰まった実話。

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