2017年、「肺がんステージ4」から奇跡の生還を遂げた刀根健さん。その壮絶な体験をつづった著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)の連載配信は、毎日が発見ネットで大反響となりました。3年前、末期がんと宣告され「生きる」ためにもがき続けたエピソードの裏に、どんな思いがあったのか、家族はどう感じていたのか、そして刀根さんの現在は――。ということで、刀根さんの特別インタビューを、3週連続でお届けします。第1回は、気になる物語のその後...、刀根さんの「現在」についてご紹介します。
優しい口調が印象的な刀根健さん(54歳)。当日はリモートでのインタビューを実施
3年間、再発もなく過ごせています。でも...
――がんの「寛解(かんかい)」から3年。最近の体調はいかがですか?
体調はとても良いですね。
まさに元気そのもの。
さすがにボクシングはやっていませんが、仕事にも復帰していますし、普段通りの生活をしています。
がんが寛解してからもずっと東大病院にお世話になっているのですが、今は2ヶ月に1度の診察と、4カ月に1度のCT検査でよくなりました。
本の中にも登場する井上先生に、変わらず診ていただいています。
――本にも書かれている「奇跡的な適合」を見せた分子標的薬「アレセンサ」の服用は終わったんですか?
「アレセンサの服用をやめるのは、やめてくれ」と井上先生から言われているんです。
「飲むのをやめた人はいないし、医者としてそれは認められない」と。
それなら一人目になってやろうかな、という思いもあるのですが(笑)、信頼する先生の指示ですから、今もきちんと飲んでいます。
私としてはどうしても「もう飲まなくても大丈夫じゃないか?」と思っちゃうくらい、元気なんですけどね。
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――良かったです! 実は、「刀根たけし 現在」と検索して、毎日が発見ネットを訪れる方も多く、再発を心配している方も多いと思います。
おかげさまで、現状ではその気配はありません。
でも、毎回の検査するたびに、「再発していたらどうしよう」と考えてしまうことはあります。
ただ、ネガティブなことを考えていると、体はネガティブに反応するんです。
これは間違いないことなんですね。
だから、ポジティブな気持ちで「僕は大丈夫だ」と思うようにしています。
え!骨に白い影が...頭をよぎった「再発の可能性」
――そんな中で、一度「再発か?」というピンチがあったとお伺いしましたが...
そうなんです。
2019年の年末に一度、腫瘍マーカーの値が若干上がったんですよ。
その前から、ちょっと左の座骨が痛かったんですよね...。
さらに、骨転移の数値が基準値をオーバーしていて、CT検査でも「骨が薄く映っている場所」が見つかったんです。
通常、アレセンサを飲んでいると、がんで溶けた骨が再生するので、修正された部分の骨の色が白く濃く映るのに、です。
それで、念のためPET検査(がんを見つけるための最新の検査)をしようということになりました。
――それは...ちょっと不安になりますね
骨の「白い部分が薄くなる」というのは、通常は「がんが再発」している可能性が高いんです。
ですので、検査結果を待っている間はさすがに「PET検査でがんが出ていたらどうしよう...」とドキドキしました。
ただ、このとき「がんが再発していませんように...」と祈っていたのですが、不思議なことに、このお願いベースの気持ちが、突然、何かのきっかけで「がんは再発していませんでした。ありがとうございました」という気持ちに変わったんですね。
――それは、結果を聞いていない段階で、ですか?
そうです。
ふっと意識が「ありがとうございました」という過去形に変わったんです。
それで、「あ、もう大丈夫だ」と思いました。
この状態で診察室に呼ばれたので行ってみたら、先生が「がんは再発していないですね」と。
――なぜ薄く映っていたのでしょう?
CT検査で「白い場所が薄くなっている」というのは、通常は「がんが再発している」というサインなのですが、より詳しいPET検査の結果は、「がんが再発していない」ことを示している...。
ドクターチームは「初めての症例だ」と頭を抱えていました(笑)。
どうやら、薄く映っていたのは、薬の力ではなく、「自分の持つ修正力」で骨を再生しているのではないか、と。
つまり「通常のアレセンサの効果を超えて骨が再生している」とも考えられるということで、先生から「論文に書かせてもらってよいですか?」と逆にお願いされました。
全く不思議なこともあるもんですね。
「がん」を寄せ付けないよう気をつけている「2つのこと」
――現在、生活面で気をつけていることはありますか?
大きく2つあります。
一つ目が「食事を含めた生活習慣をきちんとすること」。
体は、食べ物で作られているので、「きちんとしたものを体に入れる」ということは、その「きちんとしたもの」で体が作られるということです。
その考えのもとで、食事には気を使っていて、妻が栄養バランスをよく考えて、毎食作ってくれています。
家では、化学調味料やお肉、油っぽいものはなるべく口にしないようにして、ごはんやパンなどの糖質も取らず、「野菜と魚中心の食生活」を心がけていますね。
一方で、外食のときはあまり気にせずに好きなものを食べています。
ストイックになり過ぎず、メリハリをきちんとつけることが大事だと思うんです。
あとは「食事は寝る3時間以上前まで」には済ませています。
食べてすぐ寝てしまうと、内臓が動かないので体が食べ物を消化できないんですよね。
なので、夜の8時くらいまでには夕食を済ませるようにしています。
――食事以外にもあるんですか?
体を温めることも大事ですね。
「毎日シャワー」ではなく、できる限り「湯船につかる」こと。
ぬるめのお湯に20分くらい入るんです。
がん細胞は低温を好みますから、常に体を温めるのが基本なんです。
あとはきちんと睡眠をとることですね。
日頃傷ついた体を修復してくれる、いわゆる「睡眠のゴールデンタイム」(22時〜翌深夜2時)と言われる時間帯には眠っている状態でいます。
ちょっとたくさん挙げちゃいましたが、「がんを遠ざける生活習慣」として僕が意識しているのは以上です。
――なるほど。やはり普段から体を整える事は大切なんですね。
そうして、もう一つ大切なのは、「メンタル」です。
「余計なことを考えない」「常にいい気分でいる」ということがとにかく大事。
先程もお話しましたが、ネガティブなことを考えていると体はネガティブに反応するんです。
というのも、一番最初に頭に落ちてくるのは「思考」です。
思考とは、その人の「過去」がベースなんです。
過去の出来事や、過去に考えたことなど、などですね。
この「過去に紐付けられた感情」がポジティブなものだったら問題ありません。
あ、こういう時に嬉しかったな、という経験からの思考ですね。
でも、例えば、「これと同じような時に、私はとっても不安だった」とか、「これと似た時に、あの人に憎しみを感じた」など、ネガティブな思考や感情が湧いてきたら...。
不安や恐れ、怒り、憎しみ、罪悪感、自己否定感に繋がるので注意が必要です。
――そのネガティブな感情が起こるとどうなるのでしょう?
これらの感情を抱えていると、自律神経が乱れてしまいます。
ネガティブな感情を受けて、頭の中のプログラミングが「感情ホルモン」とも呼ばれるコルチゾールやアドレナリンを出せ、と命令するんですね。
そうすると、瞳孔が開いたり心臓がバクバクしたりして、体に直結するんです。
――いわゆる「交感神経が優位」になって興奮状態になるんですね。
そうです。
だから、気持ちの持ち方っていうのはすごく大事だと思っています。
「考える」というのは、過去か未来のことですよね。
あの時はこうだった、この先どうなるだろう...という思考の状態です。
これって、「頭ばっかり」で一種の迷走状態なんですね。
一方で「感じる」は現在...「今、ここ」です。
気持ちいい、嬉しい、温かい...。
なので、過去や未来を見過ぎず、つまり「思考」に頼り過ぎず、「感じる」ことを強められるよう、「気持ちの持ち方のエクササイズ」も必要なんです。
例えば、「瞑想」で自分を客観的に見れるよう練習するのもいいと思います。
そうすることで、心身ともに「自然とがんを遠ざける」事ができるようになるはずです。
取材・文/斎藤諒子
【次回予告】
僕が末期がんを宣告された時、11キロやせた時...妻はどう感じていたのか?
※インタビュー第2回は2020年8月8日(土)20:30公開予定です。お楽しみに!
『僕は、死なない。』を読んでみる:「肺がんです。ステージ4の」50歳の僕への...あまりに生々しい「宣告」/僕は、死なない。(1)
【まとめ読み】『僕は、死なない。』記事リスト50歳で突然「肺がん、ステージ4」を宣告された著者。1年生存率は約30%という状況から、ひたすらポジティブに、時にくじけそうになりながらも、もがき続ける姿をつづった実話。がんが教えてくれたこととして当時を振り返る第2部も必読です。