推定48万人!? 30代半ばから40代半ば、就職氷河期世代の「孤立無業者」とは

私たちの子ども世代は、いわゆる「就職氷河期」に該当する方が多数。その世代は、今も低収入、非正規、ひきこもりといった問題を抱えています。「就職氷河期」の現状はどのようなものなのでしょうか?労働経済学の専門家である東京大学社会科学研究所教授の玄田有史先生に、就職氷河期世代の「孤立無業者」についてお聞きしました。

交流が少なく、うちにこもる「孤立無業者」

いまになる私たちの子ども世代が高校や大学を卒業する頃、世の中は「就職氷河期」を迎えていました。バブル経済崩壊の影響で、中高年のリストラが社会問題化していた頃でした。企業は中高年の雇用を守るために、若年層の雇用を控えたのです。

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当時、何百社へと応募したにもかかわらず書類選考で落とされて面接にこぎつけることができない人や、たとえ面接まで進めても、採用の声がかからないという人が多くいました。そんな状況のため職を探す意欲を失い、求職活動を行わない多くの「無業者」が生まれてしまったのです。

東京大学社会科学研究所教授の玄田先生は2004年に『ニート フリーターでもなく失業者でもなく』(共著)という著書でこの問題を指摘しました。15~34歳までの家事、通学、就業をせず、職業訓練をしていない人々を指す「ニート」という言葉は社会に広まり問題視され、支援が始まるきっかけになりました。しかし、いまなお救われていない人たちが存在します。

就職氷河期世代で働いていない人の交流現状(2016年)

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※2016年の総務省「社会生活基本調査」を基に、玄田研究室が独自に集計。端数切り上げ

16年に国が行った調査結果を玄田先生が独自に分析した結果、上の表のようにこの世代の人たちの中で、結婚せずに職に就かず、職探しもしていない未婚無業者が約68万人もいることが分かりました。

しかもそのうち、約48万人が普段は家族とのみ交流があるか、誰とも交流がない、社会から孤立した未婚無業者だという結果でした。

政府は6月、氷河期世代を対象にした就職支援プログラムを3年間集中して行うことを決めました。しかし、家にこもり、社会との交流が少ない人たちを外に連れ出し、就職させるのは、簡単なことではありません。

いままでの支援がうまくいかなかったのですから、これまでとは異なる方法が必要です。

「例えば手始めに、親子で同じ職場でアルバイトを行うなどの、親子ペア就業を検討してみるのもよいでしょう」と、玄田先生。

「慣れるまでは抵抗があるかもしれません。しかし、これまでの常識にとらわれていては解決できない問題なのです」と、訴えています。

働く氷河期世代も苦境に立たされています

一方、いま働けている氷河期世代の人たちもまた、苦境に立たされています。

推定48万人!? 30代半ばから40代半ば、就職氷河期世代の「孤立無業者」とは 1911p021_01.jpg※厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を基に、玄田研究室作成。
実質賃金は、決まって支給する給与(月給)について、
消費者物価指数(総合・2015年基準)を用いて実質化

上の表は、大学・大学院卒の40~44歳の実質賃金の推移をまとめたものです。

バブル景気時に入社した世代が40代前半になった07年には52万9000円だったのが、氷河期世代が40代になる14年以降は40万円台前半にまで落ち込んでしまっています。

高校、大学卒業時の就職活動がうまくいかず非正規雇用の仕事を繰り返したため、思うように給与が上がらないという問題が存在するためです。

それだけではありません。

勤め続けている人たちでさえ、バブル経済時に大量入社した世代によりポストが埋まってしまっていて、なかなか会社で昇進できず給与も上がらないという悩みを抱えています。

このように、働いている人たちですら苦しい状況にあるのが、氷河期世代の特徴なのです。

そのため、旅行や外食といった日々の楽しみも制限され、子どもを持つのにもためらう、という問題が生じています。

「発想を転換しましょう。世帯収入を上げるために集中支援プログラムを利用して、結婚している人は妻が正社員として再び働く、ということを検討してみてはどうでしょうか」と、玄田先生。

氷河期世代には、これからの時代に合った働き方で収入を安定させ、生活を充実させていくことが必要なのです。

取材・文/仁井慎治

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東京大学
社会科学研究所教授
玄田有史(げんだ・ゆうじ)先生

1964年生まれ。東京大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程退学。学習院大学教授などを経て、現職。専門は労働経済学。著書は『孤立無業(SNEP)』(日本経済新聞出版社)など多数。

この記事は『毎日が発見』2019年11月号に掲載の情報です。

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