<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:60
プロフィール:実家を離れて地方で公務員をしています。父(90歳)は今も実家近くで暮らす兄(62歳)の方に有利な相続を迫ってきます。
2022年に入ってすぐ、めったに着信しない我が家のFAXが動き始めました。
「いったい誰からだ? 役場からかな?」
1枚目に送信票が打ち出されてきたので、早速確認してみました。
そこにあったのは実家近くで暮らしている兄(62歳)の名前です。
「兄貴から? 珍しいな、いつもは電話なのに...」
つい先日、昨年末に父(90歳)が骨折しました。
実家を離れて暮らすことを選んだ私をよく思っていない父は、弱みを見せることも極端に嫌います。
骨折の件は、兄の内緒の連絡で知りましたが、父の機嫌を損ねないようにと知らぬふりを貫いていました。
「案外経過が悪いとか、そういう話だったらやだなあ」
などと思いながら用紙を見ました。
「親父が送れとうるさいので送ります。あまり気にしないでくれ」
そう兄の字で走り書きされています。
「親父が送れと言ったということは、骨折の話じゃなさそうだな」
その点では胸をなでおろし、2枚目以降を待ちました。
続いて出てきたページの冒頭には「財産目録」と記されていました。
右肩が異様に上がる癖のある字は、明らかに父のものです。
何だ何だ、と思ううちに数枚の文書が打ち出されてきました。
そこには有価証券やら貯金やらの運用先や時価額、数年後の見込み受取額に至るまでが事細かに書き込まれています。
父は元銀行員ですので、こうした書類を作るのはお手の物です。
不思議なほど頭がしっかりしていることも、この書き込みぶりを見ればよくわかります。
文書の最後には「以上、兄弟で分割すること」と結ばれ、日付と父の署名、捺印(ご丁寧に実印で)がありました。
遺言のつもりなのでしょう。
「ん? 妙だな? 親父に限って書き忘れってことはないよな...」
今や紙切れ同然のゴルフ場の会員権まで含まれたその詳細な目録の中に、なぜか実家の土地建物が含まれていません。
おおよその意図はわかっていますが、追いかけるように兄から電話が入りました。
「...見たか?」
言いにくそうに兄が言い出しました。
「見たよ」
「骨折のこともあってか、いよいよ遺言を書くって言い出してさ」
「さすが親父。見事に整理されていたね。...ってことは、あえて家のことは除いてるんだよな」
「家は、分割する財産には含めないことをはっきりさせておく、って聞かなくて...」
実家を離れた私を父はよく思っていません。
実家の近くで、義姉(56歳)と一緒に何かと頼りにしている兄に実家をそのまま譲るつもりで、事あるごとに、それでいいよな、と含みのある態度を見せてきていたのです。
「財産目録にして送れば、お前は納得するはずだ、っていうのさ」
「そんなところだと思ったよ。親父らしいな」
「俺も銀行員だから、財産争いで仲違いした兄弟の話なんていくつも見てるからな。なるべく平等に分けたいと思ってるんだけど...」
「俺は勝手に家を出た身だから、実家を兄貴が継ぐことには異論はないけど...」
「いや、それにしても、家も含めた上でなるべく平等にしたいんだよ、俺は」
兄の気持ちはうれしく思います。
ただ、父が家を売って分けるような形になるのを嫌がって、兄にまるごと遺したいと考える気持ちもよく分かります。
個人的には父がしたいようにすればいいとは思っているのですが、なんか小細工を弄するかのような強引なやり方に少々モヤモヤしてしまいます。
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