アメブロで「~こんな事を言っちゃあなんですが!~」を運営しているかづと申します。現在は夫婦二人と3ニャンとで暮らしています。今から20年以上前、私の嫁時代の体験を思い出しながら書いています。
【前回】上げ膳据え膳の介護施設で自由気ままに生活できるはずじゃ...?舅の大きな勘違い/かづ
【最初から読む】アッシー・メッシー・貢君だった彼が突然父に結婚の挨拶! 夫との馴れ初め/かづ
舅が入所してから早3カ月近くが経とうとした頃、施設から電話があった。
「ちょっと困った事がありまして...。」
施設長からの電話だった。
施設では月に2回のお買い物デーがあり、希望者は施設のバスに乗って駅前のスーパーまでお買い物に連れて行って貰える。
もちろん職員が何名か付き添い、お金の管理が自分で出来ない人は職員が支払って後で清算となり、舅の場合は自分の財布を持って行って好きな物が買える。
それだけではなく、外まで買いに行かなくとも施設内でも希望者にはおやつの販売があり(医師からの許可がある人だけ)、小分けになったあられやクッキーにおせんべいなど、1袋50円~100円程度で入所者が購入できる。
面会の方からのお菓子の差し入れなども、一旦詰所で預かった上で医師の許可を取り、栄養士の指導の下でおやつの時間に部屋まで持って来てくれる。
施設長の話はこうだった。
「月に2回のお買い物デーに毎回お義父様は参加されます。毎回職員が買った物を確認させていただいています。基本何を買われても良いんですが、こちらが把握させていただくことになっていますので。ところがお義父様は職員に見つからない様に毎回お酒を買われて、カバンに隠して持って帰られるんですね」
要するに、お買い物デーに参加するたびに職員に隠れて酒を購入し、カバンに隠して自室に持ち帰り、タンスや机の引き出しに隠しては好きな時に部屋で飲んでいるらしい。
ちょうど飲んだ直後に職員に踏み込まれ、部屋に隠した酒瓶も押収されたとの事。
それでも懲りずに毎回お買い物デーでは何度も酒を購入しようとし、職員に見つかり止められを繰り返しているそうだ。
「お義父様はもう絶対にお酒は買わないと約束するので連れて行かない訳には行かないんですが、どうしましょう?」
どうしましょう? とはどういう事なのか?
「そしてもう一点なんですが...。」
施設長はとても言いにくそうに話した。
「本や雑誌に新聞などなんですが、職員に頼んで貰えば用事や職員が昼ご飯を買いにコンビニに行く時などについでに購入してきてあげる事になっているんです。 お義父様はなんと言いますか...女性の職員が買いにくい物を頼まれるので困っておりまして...。 男性職員でしたら良いと言う物でもなく...」
「エロ本ですか?」
「そうなんです!!」
舅が毎日の様にバスに乗って散歩に行っていたのは、もちろん自販機で酒を買って隠れて飲むのも楽しみの一つだったが、女性のヌード満載の新聞や雑誌を買いに行くのも目的の一つだった。
舅の手帳のカレンダーには、その手のヌードグラビア雑誌の発売日がびっしりと書かれていて、その雑誌や新聞の広告で紹介されていたヌード雑誌の発売日も更に書き加えられていたので、ほぼ毎日何かしらのヌード雑誌や新聞を買って帰っていたのだ。
舅はそのカレンダーに書かれてある発売日と雑誌名を書いたメモを職員に渡し、毎日何かしらのヌード雑誌や新聞を買って来るように頼んでいた。
出来る限り入所者の希望を叶えてあげようと色々してくれている施設だったが、女性職員から「舅さんの買い物は出来ない」と多数の報告が来たのでもう施設での購入は出来ないとの事だった。
いや、もう本当に申し訳ないとしか言いようがない。
成人向け雑誌を週に3冊も4冊も買って来てくれと、それも女性職員に頼む事に恥を感じないのも不思議だが、舅にとっては普通の雑誌と何ら変わらない感覚だったのだろう。
「今後二度とお買い物デーに連れて行かないと言う訳にも行かず、かと言って連れて行ったら隠れてお酒を買おうとするので困ってしまって。 でも、お義父様はこれと言って他に趣味と言う物がないようで、他の人と一緒に何かをすると言う事もなく、お喋りを愉しむと言う事もないので、もしよろしければ面会の時にご家族様が購入して持って来ていただく事は可能でしょうか?」
「は? エロ本をですか?」
「はい、もしよろしかったらですが...。お部屋で自分だけで楽しまれる分に関しては大丈夫なので...。 お酒に関してもそんなに飲みたいのだったらと医師の方にも相談しまして、栄養士の方から薄い水割りをグラスに半分だけなら晩御飯の時に付けても良いと言うことを聞いているんですが、それもご家族様にお聞きしてからと言うことになりまして...。 あ、ウイスキーの方は今までお義父様が買われた物をこちらでお預かりしていたのを使わせていただきます」
舅の事を色々考えた挙句に出した結果なのだろう。
「わかりました。月に2~3回は面会に行く予定なので、その時にエロ本は買って行きます。ええ、ドッサリと。 お酒の方はよろしくお願いします。なくなったら買って持って行きますので言ってください」
施設長はとても安堵した声で何度も「ありがとうございます」と言ったが、こっちが言うセリフだ。
私は次の面会に行く前にコンビニに行き、成人雑誌の棚に並んでいる軒並みを手に取って購入した。
20冊近かったが、これで次の面会まで持つだろう。
この舅の買い物に関しては、家族の目の届かない所に3食付きの一人暮らしの感覚で入所したせいか、この他にも色んな物を買いたいと職員に言っては困らせた。
一度舅を怒鳴りつけた事があったのは、新聞広告に載っていたハーモニカの通信教育を申し込みたいと言い出した時だった。
通信教育とは言っても今のようにDVDが付いているようなものではなく、一度に沢山の教材とハーモニカが届き、その教材を読んで独学で学ぶと言うものだ。
「このハーモニカが特別仕様でなかなか手に入らんものらしい」と舅は活き活きとして言うが、その総額が30万円にはビックリした。
ハーモニカだけでも10万円近い。
「お義父さんが今30万円も使ってハーモニカを学ぶ意味ってある?? こんな防音もしてないお部屋でハーモニカ吹くの? それもお義父さんが既に人に聞かせられるほどの腕前やったら音が聞こえて来てもええやろうけど、壊れたレコードみたいに同じ所を何度もプープー鳴らす様なそんな迷惑掛けんといて! 今預かっているお義父さんのお金は、保険も入ってへんは預貯金もないわ、葬式代も残してへんわのせいやねんで? 好きに使える金やと思わんとって!」
舅は施設に入れば2カ月に1度50万円超入る年金を、全部一人で使えると思っていたのだ。
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