<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:町役場の広報課で、広報誌の編集を担当しています。記事の内容によっては何かとクレームを受けることもあります。
どこの町にも広報誌というのがあると思いますが、私の勤める町でも広報誌を発行しています。
私は広報課で広報誌担当の係長をしていますので、毎月記事作りに頭を悩ませています。
とは言っても大体毎月の定番記事があるので、マンネリと非難されてもそこは粛々と進めているわけなのですが。
「4月の巻頭記事、恒例の町長と議長の対談、司会は広報係長(つまり私)にやってもらおうか」
いきなりのご指名に目が点になりました。
「...え? いや、でもそれは、副議長さんが仕切るものでは?」
発言の主である広報課参与(62歳、相談役として退職後に再任用された広報課の先輩です)に聞き返しました。
「今まではな。でも、今回はほら、あれだろ、副議長さん、女性だから...」
昨年末、体調不良で退職された副議長さんの後任は、我が町始まって以来の女性(48歳)です。
「はあ、それが何か?」
「いや。町のツートップの対談を女性が仕切るってのは、なじまんだろ?」
「そう、ですか、ねえ...」
ジェンダーへの配慮にうるさいご時世です。
今まで男性とペアが原則だった女性職員単独での取材を行うようにしたり、昔は女性社員がやることが多かった校正の仕事を男性職員にも割り振ったり、私たちもやり方を変えてきました。
不文律的にあった職場内の慣習を改めてきたつもりの私としては、納得のいかない理由でした。
とは言え相談役の意向には逆らいきれず、結局対談は私が司会を務めました。
しかし、取材のことを聞きつけた件の副議長さんから、さっそくクレームが入りました。
「え? いや、他意はありませんよ...」
電話を受けた参与はしどろもどろです。
「...いや、初の女性副議長には特集記事を組む予定でいたので、対談の方までは、と考えましてね...」
苦し紛れにそんなことも言い始めて、おいおい、なにいい加減なことを言ってるんだ、と呆れて聞いていました。
「いやさすがの女丈夫だな。えらい剣幕だったよ。ウジさん、そういうことだから、ちょっと副議長さんの紹介記事も頼むよ」
最初の発言もかなり問題がありますが...そして、インタビューまで丸投げです。
まあ、女性の副議長の所信には少々興味もありましたので、取材に出向きました。
「すみません。わざわざ特集まで組んでくださるなんて...」
副議長さんはそう言って恐縮しつつも丁寧に対応してくれました。
謙遜しつつも自分の特集記事というのは悪くない気分なのでしょう。
悶着含みながらも、インタビュー記事も含め、4月号は発行されました。
私がチェックしたものを参与に確認をお願いすると、「じゃあ確認して、あと印刷屋に回しとくから...」と言ってもらったものです。
しかし、出来上がってきた広報誌を見てびっくり!
「女だてらの辣腕副議長に直撃」という見覚えのない見出しがついています。
「いや、町長と議長の対談もあるのに、なんで副議長のインタビューまで、って言われるかと思ってさあ。ちょっとした煽り文句をね」
参与は自分の思い付きにご満悦の様子です。
この感覚のズレに開いた口がふさがりません。
役場内の各部署には印刷屋から納品次第配付するので、もはや後の祭りです。
ほどなく議会事務局から訂正依頼の抗議文が届きました。
「副議長が女性であることをことさらにゴシップ化する表現...」
もっともな訂正依頼でした。
担当者としては、訂正文を作り、町内の全戸に配付する分の広報誌には何とか挟み込みました。
すでに配付済みの役所内の分については、訂正文を挟み込みに回りながら頭を下げる羽目になりました。
「男に負けないぐらいの力があるって褒めてるんじゃないか、素直に受け止められないもんかねえ...」
これは騒動後、参与が漏らした一言です。
ジェンダーへの細心の注意が必要な時代に、時代の流れが分かっていない上司を持つと苦労します。
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