<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:役場の広報課に勤める59歳の男性です。先日52歳差のライバルに出会ってしまいました。
「はい、整列! 前へ、ならえ!」
毎年取材には来ているのですが、4月に入学したばかりの小学1年生を思い通りに動かすのは大変そうです。
「前へ」と言われてるのに、後ろからでも顔の見える子がちらほら...先生方のご苦労がしのばれます。
今日は新入生恒例の交通安全教室を町の広報誌に掲載するための取材です。
恒例と言っても、2020年はコロナ禍で全国一斉休校でしたから、この取材は2年ぶりです。
恒例の行事ができるようになっただけでも少しはましになったのかもしれません。
可愛らしい1年生の学習の様子を取材して、交通安全教室は終わりました。
「みんな頑張ったから、少し早く休み時間にしますね」
実のところは自分の方が休みたいんだろうな、と見える、お疲れ気味の先生がそう指示をします。
そうすると子どもたちはうわあっと遊具に向かって走り出しました。
滑り台もブランコも押すな押すなの大盛況です。
そんな中、鉄棒に群がっている子どもたちが歓声を上げています。
「よっちゃん、すごい!」
そう呼ばれた子は、得意げに逆上がりを繰り返していました。
1年生でも逆上がりができる子もいるんだな、と見ていると、周りでは力いっぱい足を振り上げては挫折する子が何人もいました。
「よっちゃん、教えてよ」
集まってきた子どもたちが得意な子に教わりますが、なかなかうまくいきません。
わたしは子どもが大好きなので、「どれ、手伝ってあげよう」とその輪に入り、もう一息の子のお尻を押し上げてやりました。
くるんと回ると大喜びです。
僕も、私も、と次々にせがまれ、それに応じてやっていました。
「おじさんもできるの?」
役目を奪われて少し暇になったよっちゃんが言ってきました。
「そりゃできるさ」そう言って、子どもたちの頭より高い鉄棒を握り、軽々と足を振り上げると...できません!
もう少しで足がかかりそうなのですが、落ちてしまいます。
「...ちょっと、高すぎるかな...」
照れ隠しに腕を振り回しながら、低い鉄棒をつかんで大地を蹴ると...やはりだめです。
昔は楽にできた高さですが、太ももぐらいまでしか上がりません。
「惜しいねえ、おじさん」
よっちゃんにもすっかり見下されてしまいました。
所在がなくなって鉄棒を離れると、鉄棒で手伝ってあげた子たちが何人か寄ってきて「おじさん、鬼ごっこしようよ」と誘ってくれました。
落ち込んでいるのを励ましてくれるつもりでしょうか、優しい気持ちに嬉しくなってさっそく混ぜてもらいました。
「おじさん、おっきいから最初鬼ね」
そう言われて鬼になりましたが、相手は1年生、5、6人は軽々つかまえる自信がありました。
「10数えたら追いかけていいよ」と言われて、ゆっくり10数えると追跡開始です。
あっと言う間に全滅させて...のはずだったのですが、最初の1人もなかなかつかまりません。
すばしっこく逃げる子どもたちにもう一息まで迫るとひらりと身をかわされ、恥ずかしながらその動きについていけません。
「ひい、はあ、つかま、えたあ...ちょっと、ごめん...おじさん、休憩させて...」
何とか1人をつかまえて鬼をゆだねると、ギブアップしてベンチに腰掛けてしまいました。
時計を見ると5分と経っていません。
「お疲れさまです、子どもたちについていくのは大変ですよ」
先生が近寄ってきて気遣ってくれました。
「いやあ、子どもは、すごい、ですねえ...」
こちらは息も絶え絶えです。
元気いっぱいの子どもたちは疲れも見せずに走り回っています。
子どもたちに明るい未来を見ると同時に、自分の明日に暗澹たるものを感じた一日でした。
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