<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:障がいのある方が社会的に役割を果たすことはとても大切だと思っている地方公務員です。
町の広報誌を担当しているので、町内のいろんな施設を取材します。
その中には、障がい者の方たちの就労支援を行っている社会福祉施設があります。
施設自体も地元の農産品を加工したり、間伐材を利用した木工品の制作、販売をしたり、授産施設として活動しています。
「よう、ウジさん。今日も取材? よろしく宣伝頼むよ」
そういうA君(59歳)はこの施設の職員で、私の高校時代の同級生です。
商品開発や販売などにあたる部門の責任者で、熱心な仕事ぶりは誰もが知るところ。
「宣伝じゃないよ、紹介だよ。公共性ってもんがあるんでね」
「まあまあ、そう固いこと言わないでさ」
気さくな雰囲気は商売向きだとは思います。
A君は、移動販売であちこちに販売車を出すときのリーダーもよくやっています。
役場の駐車場にもよく店を出していて、そんなときはいつもの気さくさで「心優しいウジさん、ちょっと寄って行ってよ」と声を掛けてきます。
「品物を買うだけで福祉にもなるんだぜ、お得だろ」
知り合いには半ば押し売りまがいなので、彼のことを煙たがる人も少なくありません。
知り合いどまりならいいのですが、見ず知らずの人にも持ち前の気さくさで声をかけ、買うのが当然とばかりの売り込みぶりです。
「心の狭い人だなあ」
A君の呆れたような声にみなが振り返りました。
彼が声を上げている視線の先には、そそくさと去ろうとするご婦人がいました。
「障がいのある人が一生懸命作った豆腐を買えないもんですかねえ」
誰に言うともなく大声で皮肉る姿を、横目で見ながら通り過ぎる人もいます。
一生懸命売っているのに、けんもほろろな態度を取られていら立つ気持ちはわかります。
A君の考えていることが意義あることなのも異論はありません。
しかし、だからといって尊大な態度を取ってもよいことにはなりません。
「おい、そんな言い方って...」
「何だい、間違ったことはしてないからね、俺は」
苦言を呈しても意にも介しません。
施設のイベントがあるときは、役場の入口に募金箱を置きに来ます。
そのついでとばかりに役場の各部署を回って、寄付を呼び掛けていきます。
「寄付をすることで障がい者を応援する気持ちが表せます。寄付しないってことは...言わずもがな、ですよね」
そう言いながら箱を持って職員の間を歩き回ります。
「あんな言い方されちゃ、入れないわけにいかないよねえ」
ぶつぶつ言いながら財布を取り出す同僚もいます。
同級生の私に対する態度はさらにあからさまです。
「よおウジさん。できたら紙のお金が嬉しいねえ」
取り立てもさらに厳しくあからさまです。
仕方なく千円札を箱に入れると、隣席の同僚が「とんだ同級生を持ったもんですね」と慰めてくれました。
障がい者の社会参加の必要性に全く異議はありません。
A君が言っていることはいちいちもっともだとも思います。
しかし半ば強制するような、断れば極悪人かのようにこき下ろされる「篤志」の募り方はどうにも納得がいきません。
とは言うものの、それとなく諭そうとしても暖簾に腕押しの手ごたえのなさで、カチンとくる出来事はまだまだ続きそうです。
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