<この体験記を書いた人>
ペンネーム:くあら
性別:女
年齢:53
プロフィール:世界平和を願いたいのに、自分の頭の上の蝿を追い払うだけで精一杯なのはなんでかな。
もう20年以上前、私が20代後半の頃のことです。
第一子が幼稚園に通い始め、少しでも家計の足しにとパートを始めることにしました。
採用されたのは会計事務所で、週3日、1日5時間の勤務でした。
主な仕事内容は電話番とお茶汲み、掃除などで、時給は安かったのですが、楽な仕事だったので不満はありませんでした。
入った当初、事務所代表の60代の男性会計士の他、パートは古参の50代女性と私と同世代の女性がいました。
会計士は1日事務所いることは珍しく、繁忙期以外は午後から数時間顔を出す程度。
シフトは常にパートが2人ずつ入るようになっていたので、パート同士おしゃべりをする機会は十分にありました。
仕事を始めて1カ月ほど経った頃のことです。
たまたまその日は一緒に入るパートさんが風邪で休んだので、私1人でした。
すると、昼前に出社した代表からお昼ご飯の誘いを受けました。
私はいつもお弁当を持参していたので断りましたが、あきらめません。
「お弁当は家に帰ってから食べればいい。もっといいものを食べさせるから」
そう言って強引に連れて行かれたのは、半個室になっている料亭でした。
行きつけの店らしく、女将におまかせのランチを頼み、昼からビールを注文していました。
当時私はほとんどお酒が飲めなかったので断ったのですが、「1杯くらい大丈夫」とこれも強引に注がれました。
20代後半だった私から見ると、60歳を過ぎた代表は自分の父より年上でお爺さんのようにしか思えませんでした。
警戒心もなかったのですが、食事が済み、コーヒーを飲む頃になると、向かいの席から隣へにじり寄って来たのです。
とても驚きました。
当時はその年代の男性に、性的な感情があることすら想像していなかったのです。
握られた手をやんわりと払い、そんな気がないことを作り笑いでなんとか乗り切りました。
それ以上しつこくはしてこなかったのですが、店を出たときは何を食べたか思い出せないほどぐったりしていました。
次の出勤日、古参のパートさんと一緒になり、その日のことを相談しました。
するとその人は明るく笑って「早速手を出されたのねー。あの先生誰にでもよ。それで辞めた人が何人もいるもの」と言うではないですか。
そしてもう1人の同世代パートさんとも話すと、その人も同じ目に合ったらしく、それをご主人に言ったところ激怒されたそうで、間もなくパートを辞めてしまいました。
会計士は、それ以降何かするわけではなかったのですが、心なしかよそよそしい態度にはなりました。
次に入って来た私よりも若い女の子にも同じことをしたらしく、その子の彼氏が怒って乗り込んできたという話を古参のパートさんから聞いて、私も数カ月働いただけでそこを辞めました。
それから10年ほど経ち、街でバッタリと古参のパートさんと会い、懐かしくなり喫茶店で話したのです。
その代表は1年ほど前に糖尿病で入院後亡くなり、会計事務所も閉鎖したようです。
「お見舞いに行くと車椅子に座って弱々しくて、なんだか惨めで可哀想だったわよ。昔はあんなにギラギラしていたのにね。バチが当たったのかもよ」
そんな話を複雑な思いで聞いていました。
自分よりずっと若い女性を、それも雇用主の立場を利用して口説いた代表に、あの頃はただただあきれていました。
しかし、今となっては「寂しいお爺さん」だったのかも知れないと悲しい気持ちになったのでした。
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