<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:地方に住む59歳の男性です。忘年会や新年会は自粛ムードと思いますが、田舎の地区会はそうもいかないそうです。
「ウジさんはやっぱりまだこの地区の人になり切ってないんだな」
2020年の暮れ、私が住む地区の区長さん(72)に言われた一言です。
私は関東圏にある実家を離れて地方に居を構えたのでいわゆる「よそ者」です。
今時よそ者って、と思うかもしれませんが、妻(56)との結婚を機に妻の実家近くに家を建てた時、外部から来て新たに世帯を作った人は10数年ぶりというような地区なのです。
そのことでいろいろ言われるのは嫌でした。
だから地区の共同作業や集まりには必ず顔を出し、地区の仕事などはできるだけ引き受けるようにしてきましたし、一昨年から地区の役員も引き受けました。
どうせ地区の活動にはできるだけ参加するようにしていましたから、年に数回の役員会に顔を出すぐらいで地区への貢献と胸を張れるなら、と安請け合いした部分もあります。
「ウジさんは地区のために頑張ってくれて助かるよ」
などと言ってもらえると「よそ者」としては安堵感を得られました。
地区の大仕事の一つが新年会です。
今年はコロナ禍の自粛ムードで早々に無しとなり、正直ほっとしていました。
ところが区長さんが「役員だけでも新年会で顔を合わせようじゃないか」と言い出したのです。
それを教えてくれたのは副区長さん(68)。
「まったく困ったもんだよ、飲みたいだけなんだよ、ほんとのところ」
そう渋い声で電話がかかってきました。
「ウジさんは区長の隣の家だし、役場勤めなんだから、役場から言われてる、って止めてくれよ」
副区長さんから頼み込まれ、不承不承ながら区長さんを訪ねました。
「やっぱり今、新年会はまずいんじゃないですか?」
「そうは言ってももう声掛けして、誰も反対はしてないしね」
「それはわざわざ区長さんから声を掛けられたわけですから...」
「そんなことより、料理なんかの準備を頼みたいんだけどね...」
「いや、やっぱり時節柄よろしくないと思いますよ...」
ここまで言って、区長さんが苦々しげに放ったのが冒頭の一言です。
「ウジさんは、みんながどんなに強く結ばれてるか分かってないからそんなことを言うんだよ...」
その後、地区のつながりを保つ大切さをねちねちと説かれました。
よそ者を弾くが如くの一言につい耐え切れず、ついでに集金の役割まで引き受けさせられてしまいました。
集金で役員の家を回っていると、みんなしょうがないといった風情で応じてくれましたが、副区長さんには「だめだよ、ちゃんと止めてくんなきゃ」と渋い顔をされました。
だったら自分で言ってくれよ、と思いましたが、損な役回りとあきらめて黙っていました。
年が明けて新年会当日、役員一同、区長さんの家に集まりました。
しかし役員達は挨拶が終わるや否や、ほとんどの人が帰ると言い出したのです。
「なんか感染増えてるし、家にいてよって言われちゃって...」
「ご時世ですからねえ」
1人また1人と折詰をもって早々に腰を上げます。
「まったくなってないよ。ウジさんだけだ、地区のつながりが分かってるのは...」
区長さんに付き合わされて愚痴を聞く羽目になってしまいました。
その後、田舎の我が県でも感染者がじわじわ増え始め、ついに我が町内でも(地区は違いましたが)感染者が出てニュースになりました。
「新年会なんかやって、もしも感染者が出ていたら何言われるか分からないよ」
東京都をはじめ非常事態宣言が出る頃にはそんな風に区長さんの陰口を言う人も出てきました。
後日、散歩をしていた時に偶然区長さんに会い、挨拶をするとマスクをかけたまま近寄ってきて、私に話しかけました。
「いや、ウジさん、3月の地区の総会なんだけどね...文書だけで済ますってのはダメかな?」
もちろん私は大賛成しました。
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