<この体験記を書いた人>
ペンネーム:みけ
性別:女
年齢:50
プロフィール:自営業の独身女性。
20年ほど前に中途の入社試験を受けて、ワッフル屋さんで働いた事がありました。
いくつかあるテナント店舗の一つで店長になる予定でしたが、その前に別の店舗に研修に通った時の話です。
そのお店は、一番来店客が多い「忙しい店」と聞いていました。
それだけでも緊張するのに、「強烈なおばちゃんがいるから大変だよと会社の人から聞き、とても憂鬱でした。
初めての業界だったので、想像のしようもありませんでしたが、ビクビクしながら出向くと...一目でそれと分かる人がいます。
狭い厨房でスタッフに止まる間を与えずに、機関銃のように指示を出しています。
スタッフも指示に従ってテキパキと動き、見ていて圧倒されるほどでした。
あの中に自分が入ったら...?
想像すると怖くて逃げ出したい衝動にかられましたが、勇気を出して厨房に踏み込みました。
自分では大きな声で挨拶をしたつもりでしたが、全く届かず、最悪のスタートです。
やっとのことで研修に来た新人だと理解してもらえ、おばちゃんの前に連れて行かれました。
しどろもどろに挨拶する私に、おばちゃんは威勢よく「あ、そう、宜しく!」とザックリ挨拶を返して直ぐに作業に戻ります。
「宜しく」って、私は何をしたらいいのでしょう?
誰に聞いていいか分からずにきょときょとしていると、おばちゃんから「何か出来る?」と声が掛かりました。
恥ずかしいことに何も出来ないので正直に答えると、自分の作業の手伝いをするように言われました。
よりによっておばちゃんのサポートとは!
目の前が真っ暗になりましたが、それも一瞬の事で、次から次へと容赦なくお叱りと指示が飛んできます。
「形が潰れてて売れないよ!」
「次の列からはチョコ作って!」
「イチゴがなくなってる!」
ワッフルの丸め方、フルーツの置き方など、自分も作業しているのによく見えるなぁと思うところまで細かくチェックが入ります。
そんなこと言ったって初めてなのに出来ないって...。
泣きそうになりながら、考えるゆとりもなく、怒られないことだけを祈りながら必死に作り続けました。
そうして一週間が経ち、汗をかく量も落ち着いてきた頃、研修も最終日を迎えました。
その日の夜、帰り際に私を呼び止めたおばちゃん。
「一番忙しい店でこなせたんだから、どこに行っても大丈夫。自信を持っていい店長になってね。私の事も忘れないでね」
ドキドキしながら近づいた私に、おばちゃんはそう声を掛けてくれました。
その笑顔は優しくて、私の行く先まで見つめている様でした。
きっと、仕事も出来ないのに店長として飛び込んでいく私を心配してくれていたのでしょう。
最近ではあまり見られない「親心のしごき」だったのだと思います。
それなのに怖がってしまった自分を恥ずかしく思うのと同時に、温かい気持ちになった思い出です。
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