<この体験記を書いた人>
ペンネーム:くあら
性別:女
年齢:53
プロフィール:ダンナとダナンへ行きたいなあ。でもパクチーは苦手。
実家は車で1時間ほどのところにあり、80代後半の母が1人で暮らしています。
父は10年ほど前に他界しました。
兄がすぐ近くに住んでいて、毎日のように顔を出したり泊まったりくれているので、安心ではあるのですが、母は「認知症気味」です。
正式に医師から診断を受けたわけではないのですが、とにかく同じことを繰り返し言うのです。
実家には、まだ私の私物も置いてあるので、その処分をしなくてはと、時折訪ねては片付けをしています。
先日、写真の整理をしようと眺めていると、横から母が「写真は絶対に捨てないでよ」としきりに繰り返します。
「分かった、分かった」と言いながらも、膨大な数の写真を全部取っておくわけにもいかず、デジカメに収めてから捨てるかどうしようかと途方に暮れていました。
特にアルバムに貼られているわけでもなく適当に袋に入った写真も多く、「母も私と一緒で大雑把?」と苦笑していましたが、幼少期の私の写真をふと裏返してみて驚きました。
そこには母の手書きで、小さな文字がびっしりと書かれてありました。
「〇〇(私の名前)、1歳9カ月。8月15日田舎の縁側で。上半身裸オムツ姿で白桃にかぶりつく。大きな桃を両手で持って。顔中べちょべちょ。愛くるしい。横から飼い犬のチロが心配そうに眺めてる。全部食べてお腹大丈夫?ママにも一口頂戴」
別の写真には若かりし頃の父に抱かれてスキー場にいる私。
「〇〇、2歳3カ月。初めてのスキー。パパは片手に〇〇を抱えてストック1本で滑走。プロスキーヤーみたい。かっこいい。〇〇は全然怖がらずにきゃあきゃあ笑っている。来年はパパと一緒に滑れるかな?」
私は日が暮れるのも忘れて夢中で写真を次から次に読んでいました。
以前はアルバムに収まっていて、写真の裏を見ることのなかった見覚えのある写真もありました。
母は近年になってアルバムから写真を剥がして裏の文字を読み返していたのでしょうか。
「写真は捨てないでよ」
ただ繰り返す母に「どうして? どうして捨てたらダメなの?」と尋ねてみましたが、「写真は捨てないで」と言うだけでした。
「私の小さい頃覚えてる?」と聞くと「今も小さいじゃない」とくすくす笑う母。
...もう私より小さいくせに。
一度広げた写真を一旦元に戻しました。
次来る時は、裏も見えるような写真ホルダーをたくさん買ってこよう。
母は一緒に写真の整理を手伝ってくれるかな。
それともまた「写真は捨てないでよ」と繰り返すだけでしょうか。
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