<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ののぽん
性別:女
年齢:43
プロフィール:病気療養中の43歳女性。
私は職場の人間関係からうつ病を患い、去年の夏に仕事を辞め両親のいる実家に戻って療養しています。
72歳の父は建築業を営んでいます。
典型的な「昭和の職人」という感じです。
精神的な病気は理解する気にはなれず、受け入れる事も難しい様でした。
父はもともと無口ですが、実家に戻ってからはほとんど口をきいていませんでした。
私の病気について、互いに口にすることもありません。
病気の事を伝えたいのなら自分から口に出せば良かったのですが、「どうせ怠け病くらいに思って心配もしていないのだろう」と考えて話していませんでした。
母は色々と気をつかって話も聞いてくれていましたが、父への気持ちからだんだん実家に居づらくなっていきました。
生活のリズムも違うし、元気に働いている両親の姿を見ているのも辛くなり、住まいを変えようと思いました。
実家の近くに、仕事の事務所がある土地があります。
そこに建っている長屋に移りたいと相談してみました。
最初は母に反対されましたが、生活のリズムの違いがあって落ち着かないと訴えると分かってくれました。
父は何も言いませんでした。
長屋には以前にも住んでいた事があったので、家具や家電品は揃っています。
実家の荷物を簡単にまとめて、引っ越しはすぐに済みました。
一人の生活が始まり、「快適だけど両親との距離は離れたかな...」と思い始めた、ある朝の事です。
朝と言っても早い時間に起きられなくなっていたので、8時頃だったと思います。
敷地の内側に向いた窓のカーテンを引くと、窓の下に私の部屋を見上げている父の姿がありました。
今までになかった事だったので「えっ?」と驚いて、思わずじっと見入ってしまいました。
父の方も私の気配に気付き、目が合ってしまいました。
無口で、表情にも感情を出さない父なので、何を考えているかも分かりにくいのですが、この時はちょっと違いました。
いつもの「怒っている様に見える強面」ではなかったのです。
物思いにふけっているような、カッコよく表せば「憂いを帯びた目」をしていました。
目が合っていたのはほんの1、2秒。
でも私にも、その父の目に...「とても心配してくれている」という事が、ようやく分かったのです。
後日、母にこの話をしたら、父の意外な一面を教えてくれたのです。
「お父さんはあなたの事がとても可愛くてね、どんな事もお母さんより心配してきたのよ。病気の事は想像できないだけに不安で、お母さんに病院での事を聞いてくるんだよ」
何でも口に出す自分とは違う父の性格を改めて思い返してみて、勝手な思い込みで余計に心配を掛けていた事を、心から申し訳なく思いました。
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