<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:60
プロフィール:父(90歳)が一人で暮らす実家を離れて地方都市で公務員をしています。意地っ張りな父に気をもむ日々です。
2021年11月のある日、我が家の電話が鳴りました。
かけてきたのは兄(62歳)で「いやあ、ご無沙汰だな」と、いつもの挨拶で始まりました。
「便りがないのは無事な証拠」が信条の兄からの電話は、まず9割方はよくない話なので、気を落ち着けて「何かあった?」と聞き返しました。
「例によって親父からは止められてるんだけどさ...」と言いにくそうな様子でした。
その話によると父(90歳)が転倒して鎖骨を折ったというのです。
2021年6月に母を亡くしたあと、父は一人暮らしです。
足も悪くしているので心配していました。
「出かけたときに歩道橋で足を踏み外したらしくてさ、前のめりに倒れて手すりにぶつけたらしいんだよね」
「心配してたとおりだな」
「まあね...今度手術するんだ。大した手術じゃないらしいけどね」
「...見舞いに行ったほうがいいかな?」
「おいおい、やめろよ。お前に知らせたのが分かったらまた機嫌が悪くなる」
大学進学を機に実家を離れた私のことを、父はあまり良く思っていません。
コロナ禍も私と縁遠くしておきたい父には好都合だったらしく、ここ最近では母が亡くなったときぐらいしか実家に帰っていないほどです。
「一応知らせただけだ。こっちでなんとかするから。手術が終わったらまた連絡するよ」
そう言って兄は電話を切りました。
そう言われても、ほっておくのも気が引けます。
やむなく実家と同じ関東圏の中学校に努めている娘(27歳)に連絡を取りました。
「なんか言い訳つけて、様子を見に行ってくれないか?」
「言い訳って?」
「ほら、お前、12月が誕生日だから、お祝いもらいに来ました、とか言って」
「そんな厚かましい孫じゃないよ...まあ、とにかく連絡してみる」
しばらくしたら娘から電話が来ました。
「久しぶりに会いたいな、って電話してみたんだけど...」
「だめか?」
「まだまだコロナが怖いから来るなって。誕生祝いは送るからって言われちゃった」
コロナも沈静化していた頃ですから、大好きな孫の来訪を断るほどの状況ではありません。
娘が実家を訪ねれば、私に骨折のことが知られると思っているのでしょう。
手をこまねいているうちに、数日がたち兄から電話が来ました。
「手術は無事成功。お医者さんに年齢の割に骨がしっかりしてますね、とか言われて調子に乗っちゃってるよ」
さしあたり胸をなでおろしました。
「さすがに一人暮らしも心配だから、一緒に住もうよ、って誘ってみたんだけどさ...」
「だめ?」
「悠々自適を楽しんでるのに邪魔するもんじゃない、って突っぱねられちゃったよ」
「また、そんなことを...」
「頑固にもほどがあるよな。今度の骨折だって、俺にも言うつもりはなかったんだぜ」
「隠し通せなかったんだろ? そりゃ痛むだろうしさ...」
「違う違う。病院で手術しないとだめって言われて、手術にあたって保証人が必要になったんで、しぶしぶ言ってきたのさ。それがなければ治るまで天の岩戸よろしく俺にも会わなかったかもな」
母が存命の頃も、兄からの同居の誘いを両親一緒になって拒否していました。
子どもの世話にはならない、という矜持を持ち続けているようです。
歳を取るにつれていよいよ意固地になっているようにも感じます。
「まあ、温かく見守るしかないかな...」
電話の向こうでため息交じりにつぶやく兄ともども、心配は募るばかりです。
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