<この体験記を書いた人>
ペンネーム:トリコ
性別:女
年齢:48
プロフィール:夫と大学生の息子の3人で暮らす主婦。実父は7年前に他界。施設に入所している実母の言動に振り回さる日々です。
3年前から特別養護老人ホームに入所している83歳の母は、自分より半世紀近くも年の離れた若いイケメンが大好きです。
施設で働く介護士さんの話によれば、食堂のテレビにキラキラしたアイドルグループの男の子が映ると、箸を持つ手を止め、画面を食い入るように見つめているのだとか。
アイドルグループの中でもとくに心を奪われていたのが、2020年をもって活動を休止した国民的グループA。
たとえ娘婿の名前は忘れても、メンバーは全員フルネームで言えるほど、イケメンに関しては驚異的な記憶力を発揮します。
若い男性に関心があるだけなら、まだかわいいものです。
問題は、顔が好みかどうかによって、男性介護士さんへの態度を180度変えることです。
たとえば、お気に入りの介護士さんが担当の日は、終始笑顔で上機嫌なのに対し、少し年配のベテラン介護士さんが部屋に来ると、「あーあ、○○さんに来てほしかったわ」と本気で残念がるのです。
「自分の年齢と容姿を考えてから言いなさいよ」
私がそう注意しても、一向に反省する様子がありません。
以前から、母には心の中の声をそのまま言葉にする空気の読めないところがあり、年齢を重ねるにつれてその性格に磨きがかかってきたように思います。
施設の職員の皆さんは、今のところ母の失言を笑って受け流してくれていますが、娘の私は、母と面会をするたびに今度は何を言い出すかとヒヤヒヤさせられます。
しかし、コロナ禍にあるここ1年ほどは、感染拡大防止の観点から施設での面会が制限され、母の言動に振り回されることも少なくなりました。
とはいえイケメン好きは相変わらずです。
昨年の夏、リモート面会をした時には、「Aのメンバーに似た介護士さんが新しく入ってきた」とタブレット端末の画面越しに大喜びしていました。
そして、年も明けた2021年の元日、ついに事件が起こりました。
その日は、正月休みだった私の夫と息子もリモート面会に参加し、母はいつにも増して上機嫌でした。
調子に乗って「ほら、私の彼氏よ」とAのメンバーに似ているという例の新人介護士さんを、タブレット端末の画面越しに紹介してくれました。
優しそうな好青年で、母に彼氏と呼ばれても「お母さんの冗談には、いつも笑わせてもらっています」と大人の対応をして仕事に戻られました。
彼のおかげで和やかな雰囲気のなか、そろそろリモート面会もお開きになろうかという時です。
「お食事の時間ですよ」という別の介護士さんの声が聞こえました。
タブレット端末の画面に顔は映っていませんでしたが、声の感じから年配の男性介護士さんだと分かりました。
1人で歩けない母を食堂まで連れていこうと迎えに来てくれたようでした。
一方母は、イケメン介護士さんが迎えに現れると期待していたのでしょう。
「今日は〇〇さんが担当でしょ。〇〇さんじゃなきゃ嫌だ」
そんなわがままを言い出し、あろうことかベテラン介護士さんに向かって、とんでもないことを言ってしまったのです。
「40歳以上の人は、この部屋に立ち入り禁止ね!」
40歳以上が立ち入り禁止なら、80歳をとうに超えている母は廊下で寝なくてはなりません。
小学生が考えそうな禁止令に、夫も息子も、そして(恐らく)ベテラン介護士さんも苦笑いを浮かべていました。
その後、私がベテラン介護士さんに平身低頭、謝ったことは言うまでもありません。
母のイケメン好きには困ったものですが、異性に関心があるうちは、まだまだ元気な証拠だと喜ぶべきなのでしょうか。
施設の皆さんが広い心で母に接してくれることを祈るばかりです。
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