<この体験記を書いた人>
ペンネーム:わんわん
性別:女
年齢:51
プロフィール:会社勤めの主婦。56歳会社員の夫、21歳大学生の息子と3人で首都圏在住。
1970年に地方都市で生まれた私は、小学校から高校までの一貫校で過ごしたため、今では45年以上交友関係が続く友人が複数います。
その中の1人(以下O子とします)との「別れ」について聞いてください。
私が通っていたのは小学校から高校まで1学年3クラス構成の小規模な共学で、O子とは小中高の12年間を共にしました。
大学や就職先は別でしたが、同じ地方都市内だったので、O子と私を含めた気の合うグループで、一緒にアルバイトをしたり、会食したり、旅行したりする関係が続いていました。
20代後半から40歳頃までは、私は結婚し東京へ転居、その後出産・育児に忙しく過ごしていました。
同じ頃O子は地元で仕事を続けながら結婚、順調に昇進し、子どもはできなかったけれど家事もがんばってこなしていた時期でした。
その20年間は会える頻度は激減しましたが、会えば一瞬で子どもの頃のように話が盛り上がる大事な友人の一人でした。
私の子育ても一段落した41歳の頃、同じ友人グループの一人から、O子に関する衝撃的な連絡を受けました。
「O子が体調不良で精密検査を受けたんだけど、その結果が深刻らしい」
友人グループは、運のよいことに女医さんが多く、他の同窓生にも男女ともに医療関係者が多数いました。
この知らせを受けた地元の友人たちがいち早く動き、検査から治療方針の提案、治療開始まではとてもスムーズに進みました。
私はO子から直接連絡をもらい、地元のカフェで会いました。
「この先の治療でO子が痛かったり、しんどかったりすることができるだけ少ないことをいつも願ってる、いつも考えてる」
そう私が伝えると、気丈にしていたO子の目から涙が一粒落ちました。
私も泣きました。
医療関係者ではない私にできることは治療への不安を共有すること、そして不安な心に寄り添うことだけでした。
週に1回くらいの頻度で「返事は書かないで、読めるときに読んで」という約束で手紙を定期的に送りました。
私のパート先の話、人から聞いたおもしろかったこと、昔の思い出、などたわいのない話です。
O子の治療と治療の合間の体調のよいときは、友人グループで旅行することもできましたが、O子は体がしんどいと横になっていたこともありました。
内科の友人に触診してもらっている様子を見ていて、人の手で触れてもらうことをO子が希望しているように見えたので、「医者じゃないけど、触っていい?」と私が尋ねると「いいよ」と言ってくれました。
私は病気のあるお腹の部分に少し触れた後、彼女の手や首のあたりを普段と同じ会話をしながらさすりました。
もともと小柄なO子の手は子どものように小さく「小学校のときのアトピー、すっかり治ったね」とか「元々スマートだったから、あんまり変わらないね」等と言いながら。
O子が私そのもの、私の姉妹、私の子どものようにも思えてきて胸がいっぱいになりました。
そんな数年が続き、私もO子も45歳になった頃、女医の友人から「O子は緩和ケアを受けられる病室に入ることができた」と聞きました。
生きていてほしいけれど、治療がどれくらい苦しくつらいものか想像できるし、もうこれ以上がんばれなんて言えません。
医療設備の整ったホスピスで痛みから解放されるなら...と思いながらも、手紙を書いて送っていました。
緩和ケアに入って数カ月後、O子がこん睡状態に入ったと女医の友人から連絡を受け、O子のご主人が面会を許してくれていることも聞き、その日の夜行バスで駆け付けました。
O子の枕元には、2日前に私が投函した未開封の手紙が置かれていました。
ご主人に「O子の手に触っていいですか?」と尋ね、O子の左手を私の両手で包みながら、意識のないO子に40年の感謝を告げることができました。
それまで気丈にしていた女医の友人も泣いていました。
ご家族で過ごす時間の一部を私のために譲ってくださったご主人に謝意を告げ「O子、また会おうね、待っててね」と言って病室を出ました。
その3日後、O子は旅立ちました。
O子のご主人にお墓の場所も教えてもらったので、帰省の際は友人とO子を訪ね、そこでO子がいた頃と同じようにみんなで雑談をし「じゃあ、また来るね」と帰ります。
あの別れから5年、折に触れO子を思い出します。
あの優しいO子が待っていてくれるなら、私に「そのとき」が来ても怖くないなと温かい気持ちになります。
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