＜この体験記を書いた人＞
ペンネーム：文月奈津
性別：女
年齢：64
プロフィール：夫と次男の3人暮らし。長男が最近結婚。長男の幸せをうれしく思う気持ちの中に、ちょっぴり淋しさが混じります。
2020年の4月、長男（31）から待ちに待った結婚の報告がありました。
8月には、長男が住んでいるマンションにお嫁さんが越してくる予定でした。
ところが6月に会いに来た時は、コロリと意見が変わっていたのです。
「○○駅のすぐそばに気に入った新築マンションが見つかったんだよ。6,780万円で高いけれど、ゆりちゃん（お嫁さん）も気にいっているし、一応申し込んだ」
私は、びっくり仰天。
まさか、結婚と同時進行で新居の購入を考えているとは思いませんでした。
「エンゲージリングも高いのを買ったようだし、結婚式も挙げるつもりでいるのでしょ。頭金は、最低でも物件額の2割はないとだめよ」
「今金利がとっても安くてチャンスだと思う。今のマンションは、前に話したように隣の人が何を歌っているかはっきり分かるほど、音がもれる。リビングは広いし、収納がたくさんあっていいマンションなんだよ。購入するはずの人がキッチンをグレードアップしたり、玄関には大きな鏡もつけたりしたのに、キャンセルしたんだって」
私は3年足らずですが、大手不動産会社のマンション、戸建住宅のモデルルームで案内係をしていました。
派遣された中で一番高かった、160平米もあるのに2LDKのマンションにタイプがよく似ています。
リビングは36畳で、寝室は6畳、書斎は5畳、収納は驚くほど豊富でした。
一方長男の物件は108平米で3LDK。
収納とリビングに広さを取られているから、主寝室は6畳ですが、他の二つは5.5畳だそう。
ディンクス（共働きで子どもを作らない夫婦のこと）向きのマンションですし、高すぎます。
「今の収入のままとしてライフプラン表を作って、必要額も計算したんだ。なんとかやっていけるよ」
そう言う長男を主人も「支払いが大変だよ」と説得しましたが聞き入れません。
その時、長男が所属する事務所のトップで、公認会計士の資格試験の時にお世話になった、長男の尊敬するUさんの顔が浮かんできました。
「相談してみたら」と提案することが精一杯でした。
しかし、後日電話で確認してみたのですが、Uさんも止めてくれなかったようです。
「ライフプラン表を見ながら、検討してくれたよ。『いけるんじゃないか』と言ってくださった」
それを聞いて、私は深いため息をつきました。
しかし1カ月後の7月、事態は急転します。
「マンションはあきらめた。子どもの教育に十分かけられなくなるし、住宅にばかりお金をかけるのはよくないとゆりちゃんと話し合ったんだ」
しかしほっとしたのもつかの間、「結婚式は準備の時間も必要だし、コロナでどうなるか分からないから未定」とも話していたのに、12月下旬に結婚式を挙げると言い出したのです。
まあ、家を買うのを諦めただけいいか...と無理やり自分を納得させました。
ところが、まさかさらに1カ月後、三つ目の事後報告があるとは思いもよりませんでした。
同じ市内ですが、我が家とは路線の異なる駅から7、8分の、これから建てる戸建てを申し込んだと聞かされたのです。
「急行の停まる駅だし、閑静な住宅街なんだよ。今までと違って駅近で、乗り換えなしで会社に行ける。建てるのは地元の業者だから打ち合わせもしやすい。うまくすれば、年内に引っ越せるかもしれない」
こっちの気も知らずに長男はうれしそうに報告してきました。
スマホで検索しようとしたら、「申し込んだのだから、もうネットにはのっていないよ」って、間取りがどうかとか確認することもできないじゃない！
今度の家は、5,380万円。
お嫁さんの実家にも近いし、長男の利用する路線にも便利です。
確かに良さそうと思ったけれど、何故いつも事後報告なのでしょう。
長男の伯父（私の兄）は、大手住宅メーカーで35年間も営業をしてきたので知識も豊富です。
一生の買い物をするのだから、相談してくれればいいのにと思わずにはいられません。
仲良くさせてもらっているお嫁さんのお母さんとランチをした時、「2人ともしっかりしているから、結婚式のことも新居の購入も心配しなくて大丈夫よ」と言われました。
結局、2021年の1月中旬に新居に引っ越した長男夫婦ですが、親の出る番は、完全に終わったのだという感じが、うれしいような寂しいような気持ちでいます。
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