『今だからわかること 84歳になって』 (末盛千枝子/KADOKAWA)第6回【全7回】


上皇后美智子さまの長年のご親友であり、彫刻家・舟越桂さんの姉でもある末盛千枝子さん。絵本編集者を経て「すえもりブックス」を設立した末盛さんは、84歳を迎えた現在、東京から移住した岩手山を望む自宅でひとり暮らしを送られています。著書『今だからわかること 84歳になって』(KADOKAWA)は、80代という人生の深まりを迎えた末盛さんだからこそ感じられる、日々の発見や生き方の実感が綴られた一冊です。年齢とともに訪れる身体の変化や暮らしの機微をまっすぐに見つめつつ、ユーモアを交えて語られる言葉の数々は、これからの人生を軽やかに生きるためのヒントにあふれています。

※本記事は末盛千枝子(著)による書籍『今だからわかること 84歳になって』から一部抜粋・編集しました。

今になってわかる本

こうして年齢を重ねてみると、読書にも、若い頃とは違う楽しみが生まれます。

数十年ぶりに、高校時代の恩師と便りを交わす機会があって、そこに一冊の本について触れてありました。イギリスの歴史家アーノルド・J・トインビーの『ナイルとニジェールの間に』という60年近くも前に書かれたアフリカを巡る旅行記です。学生時代、彼の書物は必読と言われながら、難解そうで敬遠していたのですが、恩師の言葉で読み始めてみると、これがみずみずしくて洞察に富む素晴らしい内容でした。この年齢になったからこそ、今までの経験や知識で理解できる。そういう読書もあるのですね。

一方で、長く読み続けてきた本を再読するのもまた、面白いものです。もうすっかり古典になっていますが、『ジェーン・エア』。中学生の頃から、何度も読み返してきました。シャーロット・ブロンテの小説で、妹のエミリー・ブロンテの『嵐が丘』と比べれば、主人公は地味だし、ストーリーも不条理な運命に翻弄されて、でも希望を捨てずに生きてゆくというお話ですから、読むのも結構大変なのです。でもなぜか、私はこの小説が好きで、東京から八幡平まで車を運転しながら、この英語ドラマの録音を聴いていたこともありました。

なぜこれほど引かれるのか、わからないまま読み続けてきたのですが、今頃になってようやく気づいたのです。「あら、これって私の人生と同じじゃない?」。以前、親友に、「ジェーンはあなたによく似てるわよ」と言われ、え~っ?と思ったけれど、とても人ごとではなかったというわけです。