『今だからわかること 84歳になって』 (末盛千枝子/KADOKAWA)第5回【全7回】


上皇后美智子さまの長年のご親友であり、彫刻家・舟越桂さんの姉でもある末盛千枝子さん。絵本編集者を経て「すえもりブックス」を設立した末盛さんは、84歳を迎えた現在、東京から移住した岩手山を望む自宅でひとり暮らしを送られています。著書『今だからわかること 84歳になって』(KADOKAWA)は、80代という人生の深まりを迎えた末盛さんだからこそ感じられる、日々の発見や生き方の実感が綴られた一冊です。年齢とともに訪れる身体の変化や暮らしの機微をまっすぐに見つめつつ、ユーモアを交えて語られる言葉の数々は、これからの人生を軽やかに生きるためのヒントにあふれています。

※本記事は末盛千枝子(著)による書籍『今だからわかること 84歳になって』から一部抜粋・編集しました。

スタンド・バイ・ミー

32年前のこと。春彦が高校1年の時、学校のキャンプを終え帰ってきたので、お帰りと玄関の扉を開けたら、オレンジ色の髪の春彦が立っていました。「出て行きなさい!」。「おう、出てってやる!」。飛び出したその3日後、彼の友達の家に電話をしたら、お母さんが「いるわよ。今、夫が店に連れて行って黒に染めてるから」と。友達のご両親は、夫婦で美容院をやっていたのです。気が抜けました。言い訳のようですが、あの頃、大人も若者も、髪の毛を染めている人はほとんどいなかったのです。

それで思い出すのが、春彦、武彦が小学生の時に一緒に観に行った映画「スタンド・バイ・ミー」です。ひしめくような立ち見状態だったので、真ん中の通路を下りて行って、白い特別シートの隣、つまり通路に座ったのです。館内のど真ん中ですから、映画を観るのには特等席。戸惑う息子たちに「昔は、こうして見たのよ」って言うと、「すげえ!」って。後に、春彦は言っていました。「そんなのダメだと思いつつ、カッコよかったよ」。息子たちにとっては、少し年上の憧れを抱くような少年たちがやりそうな不良っぽいことをしながら、12歳の少年たちのヒリヒリするようなひと夏の冒険をドキドキしながら一緒に観た。私にも貴重な体験でした。

武彦がいた頃は、映画情報をスマホで調べてくれて、「俺はこれを観るけど、母さんは『小さいおうち』の方がいいんじゃないか」とか「これは一緒に観ても楽しいだろうね」なんて見繕ってくれていました。病院の帰りに一緒に観た「グランド・ブダペスト・ホテル」という映画は、本当に素晴らしかったです。