上皇后美智子さまの長年のご親友であり、彫刻家・舟越桂さんの姉でもある末盛千枝子さん。絵本編集者を経て「すえもりブックス」を設立した末盛さんは、84歳を迎えた現在、東京から移住した岩手山を望む自宅でひとり暮らしを送られています。著書『今だからわかること 84歳になって』(KADOKAWA)は、80代という人生の深まりを迎えた末盛さんだからこそ感じられる、日々の発見や生き方の実感が綴られた一冊です。年齢とともに訪れる身体の変化や暮らしの機微をまっすぐに見つめつつ、ユーモアを交えて語られる言葉の数々は、これからの人生を軽やかに生きるためのヒントにあふれています。
※本記事は末盛千枝子(著)による書籍『今だからわかること 84歳になって』から一部抜粋・編集しました。
千枝子像と父のこと
上の像、不機嫌そうな顔をしているでしょう。疎開で盛岡にいた小学生の頃、私がモデルになって、彫刻家の父が作ったブロンズ像です。いきなり「千枝子、モデルになれ」と言われ、せっかく遊んでいたのに中断させられ呼びつけられたものだから、ムッとしているんです。父はコタツに入って粘土をいじっていたように記憶しています。大人になって、じっくりと眺め、不愉快な思いがちゃんと出ていることに驚きました。
父の作品は、岩手県立美術館をはじめ、盛岡の公園や街中、市役所などあちこちに置かれています。見て回れば、もちろん懐かしさもありますし、いいなあと思う作品はいくつもあるのですが、それ以上に、私たち舟越の家族は、これで生きてきたんだという思いが強く込み上げてきます。いくらかの晴れがましさとは裏腹に、申し訳ないというのか、この街の方々に本当にお世話になったんだなという感慨があるのです。
父は、彫刻一本で身を立てようとして、それでも生計を立てるために、求められた彫刻やデッサンを描き、母の実家やこの街の知り合いや、親戚たちに買ってもらっていました。その過程で、父は確実に技術と表現とを自分のものとして築いていったのだと思います。母はそんな父の傍で、「私たちはお父さんの代わりに彫刻を作ることはできないのだから、お父さんが仕事をしやすいように協力しましょう」と言っていましたが、きっと自分自身に言い聞かせていたのでしょう。今になって、母の心中がわかるようです。

