上皇后美智子さまの長年のご親友であり、彫刻家・舟越桂さんの姉でもある末盛千枝子さん。絵本編集者を経て「すえもりブックス」を設立した末盛さんは、84歳を迎えた現在、東京から移住した岩手山を望む自宅でひとり暮らしを送られています。著書『今だからわかること 84歳になって』(KADOKAWA)は、80代という人生の深まりを迎えた末盛さんだからこそ感じられる、日々の発見や生き方の実感が綴られた一冊です。年齢とともに訪れる身体の変化や暮らしの機微をまっすぐに見つめつつ、ユーモアを交えて語られる言葉の数々は、これからの人生を軽やかに生きるためのヒントにあふれています。
※本記事は末盛千枝子(著)による書籍『今だからわかること 84歳になって』から一部抜粋・編集しました。
人間のありようを描き出す
随分若い頃から、私は人間のありようというものに興味がありました。ありようとは、誤解を恐れずに言えば、人間はどのように死ぬのかということです。それは、誰にもわからないし、悲しい死に方をする人もたくさんいるだろうけれど、それでもみんな同じなのよという思いが、私の中には根強くあります。
それを端的に示してくれたのが、『ザ・ファミリー・オブ・マン』という写真集でした。68カ国273人の写真家が、人が生まれ、育ち、学び、働き、恋をして成熟し、老いて死んでゆくそのありようを撮影し、まとめた伝説的な一冊です。母が買って、家の居間に置かれていたのを、少女時代から何度も繰り返し開いて、ボロボロになって今、私の手元に残されています。タイトルの「人類という大きな家族」──このテーマで世の中はもう一度見直されるべきなのではないでしょうか。
レンブラントも、父母から素晴らしいと吹き込まれて、長く親しんできた画家です。生涯にわたって描き続けたレンブラントの自画像は、悲しそうだけれど本当によい表情をしていて、その作品の数々にどれほど励まされたかわかりません。ですが、それとはまた別に、ある大きな展覧会で見た老人の肖像画は、個人的な体験として衝撃的でした。その深い描写に思わず引き寄せられて呆然と見入っていると、その老人に「そうだね、私にもそういう辛い時代があったよ」と声をかけられたように感じたのです。ちょっと忘れ難い作品で、今でも折々に思い出します。

