負担が大きいほど囲いこめる
スイッチングコストの特徴は、コスト負担の感じ方が人それぞれで異なることです。一般的なコストは、例えば、電話代が5000円、交通費が1万円といったように数値化でき、5000円や1万円という価格は万人に共通です。
一方、スイッチングコストは心理負担が占める割合が大きく、これは数値化できません。例えば、機器の操作に慣れていない人や忙しい人は面倒と感じる度合いが大きいでしょう。慣れている人は格安スマホをネットで契約したりSIMカードを入れ替えたりする作業に負荷を感じません。
この負担の大きさや差を数値化することはできないのです。これはサービスの提供者側にとっては囲い込み戦略のポイントです。
重要なのは、他社サービスに変えるための手続きが煩雑であるほど、また、手続きに不慣れなユーザーが多いほど、そのサービスはスイッチングコストが高く、ユーザーを囲みやすいということです。
そのため、ユーザーを囲い込むための施策としては、手続きを複雑にしたほうが良いといえます。実際、大手キャリアのサービスを見ると、家族割引、長期利用割引、自宅用インターネット回線の割引、電気代など別のサービスとの連携、クレジットカードやポイントカードとの連携サービスなどがあり、ユーザー特典が複雑化しています。
キャリアを変えると、それに伴って付帯サービスも契約し直すことになり、つまり非常に面倒くさくなります。そこでスイッチングコストが高くなり、「多少高くても今のままでいいや」となるわけです。
コストを下げる見返りは大きい
大手などから顧客の獲得を目指す新規事業者の場合は、この面倒くさい心理を上回る特典をつけなければなりません。その方法は3つあります。
1つは価格特典です。既存サービスよりも安ければ安いほど「面倒だけど、やったほうが得」と思う人が増えます。
2つ目は乗り換えの手間を抑えることです。すぐできる、誰でもできる、代わりに手続きをするといった方法によって「それほど面倒ではなさそうだ」と思ってもらうということです。
3つ目は既存サービスにない魅力をつくることです。乗り換えの手続きが面倒でも、乗り換えた先でしか使えない機能などがあれば、「面倒くさいけど乗り換えよう」と思ってもらえるでしょう。
また、そのための施策としては、サンプルを配ったり無料のお試し期間を設けたりするなどして魅力を感じてもらうことができます。
スイッチングコストの壁さえ乗り超えれば、そこから先は継続的な収益が生まれます。携帯電話の場合、大手のユーザーの継続利用年数は10年を超えていることが多く、つまり10年にわたって収益が獲得できます。囲い込みによって事業収益も安定しやすくなります。
これは大きな見返りです。そのために施策を工夫したり考え出したりする効果も非常に大きいといえます。