今冬の寒さはピークを過ぎましたが、まだまだ肌寒い日が続くこのごろ。冷え性や寒さ対策の一環として、就寝中も靴下を履いたまま寝るという方は多いのではないでしょうか? 足元を暖かくするという点で効果的にも思われる、睡眠中に靴下を履く行為。実は、睡眠の質を低下させてしまうNG行為なのです。
今回は、一般社団法人睡眠スパ協会代表理事で、睡眠アプリ「Somnus」の監修を務める金沢優治氏(以下、金沢氏)に、靴下を履いたまま寝ることについてお聞きしました。
睡眠の質を高めるには「深部体温」を低下させることがポイント
睡眠のメカニズムについて、金沢氏は、「人間の脳には深部体温(体の内部の温度)が下がり、外の気温との差が生じるにつれ眠気が生じる、という働きがあります。つまり、適切な眠気を発生させるためには、就寝前にこの深部体温を下げる必要があるのです」と語ります。
深部体温を下げるには、皮膚表面から身体の熱を外に放射(熱放射)させなければなりません。この身体の熱放射は、手足のような体の末端で多く行われます。つまり就寝前、睡眠時に靴下を履くということは、足先での熱放射を妨げ、深部体温を下がりにくくしてしまうのです。ちなみに冷え性の方が不眠になりやすい(*[1])も、この深部体温のメカニズムが原因です。
眠気だけではなく、睡眠の質という点でも、深部体温を下げることは大切だと金沢氏は話します。「ノンレム睡眠、その中でも深い睡眠(徐波睡眠)では、特に体温が低下します(*[2])。そしてこの深い睡眠は睡眠の前半に多く現れます(*[3])。つまり、良質で深い睡眠をとるには、この深部体温を寝る直前にしっかり下げることが必要になるのです」。
睡眠中に靴下を履くという行為は、
・適切な眠気を生じにくくさせる
・深い睡眠が現れにくくなる
という点でNG行為に当たります。これは靴下だけではなく、厚着をしたまま寝る、電気毛布や、室内エアコンを付けたまま寝るという行為にも当てはまります。
良質な睡眠がとれないと自律神経が乱れてしまい、血管収縮、血行不良をもたらします。血行が悪化すると冷え性になり、更なる悪循環が生まれるので注意が必要です。
寝る前の体温コンディションを整えよう
睡眠時に靴下を履いて、過度に身体の末端を保温することは、睡眠にとって悪影響と述べました。そうは言っても、足先が冷えた状態のままで眠りにつくのは難しいというのも現実です。
実際、足先が冷えたままで寝床に就いてしまうと、体の熱温が手足の末端神経にまで巡らず、熱放射が上手く働きません。つまり、睡眠時には手足が温まり過ぎても冷え過ぎてもいけないということです。良い睡眠をとるにはしっかり体温を調整する必要があります。
そのために、私たちは一体どうすればいいのでしょうか? 金沢氏に日々の生活の中でできる対処法をお聞きしました。
就寝前に体温を整える方法としては、以下の3つが挙げられます。
・夕方にジョギングなどの運動を行う
・寝る前にぬるま湯(30℃~40℃、手で触って熱くない程度)で、足湯を行う
・寝る前に軽いストレッチを行う
ポイントは夕方から寝る直前に身体を温めることです。そうすることによって身体の抹消血管が広がって手足からの熱放射が行われ、睡眠時に深部体温がしっかり下がるようになります。
また自律神経の副交感神経を優位にすることによって血行が良くなり、適切な眠気を生じさせることにもつながります。
肌寒く体が冷えやすい時期ですが、これらの対策をしっかり日々の生活に取り込むことで、あなたの睡眠はより良いものになるでしょう。睡眠時に靴下を履くことは控え、これらの対策を実践してみてください。
参考文献
[1] 西川桃子, 我部山キヨ子: 「冷え症の定義,測定,特徴およひ゛妊婦の冷え症に関する
文献レヒ゛ューと今後の研究の方向性」京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻紀要 : 健康科学 : health science (2010), 6: 57-65
[2] 亀井雄一, 内山真: 快眠法. Modern Physician 25(1): 55-59, 2005
[3] 名嘉村博, 「良い眠り 良い人生 3」『琉球新報』, 2008