【ブギウギ】ブレない魅力の草彅剛、自然な演技が光る子役...役者の名演を引き出す「脚本×演出」の巧みさ

【先週】「どのように描くのか?」注目の展開のなか、視聴者が思い出した「朝ドラ史上最高傑作」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「脚本×演出」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ブギウギ】ブレない魅力の草彅剛、自然な演技が光る子役...役者の名演を引き出す「脚本×演出」の巧みさ pixta_700536_M.jpg

趣里主演の朝ドラ『ブギウギ』第21週「あなたが笑えば、私も笑う」が放送された。


モデルとなった笠置シヅ子の人生があまりに波瀾万丈で、物語性に富んでいるだけに、ともすればあらすじありき+パフォーマンスに全力投球というワンパターン構成になりがちな本作。その中で、個人的に「今週は描写が繊細だな」と感じる週がこれまで何度かあったが、今週はその一例だった。


SNSなどの話題は、「ゲスな記者・鮫島(みのすけ)」と「りつ子(菊地凛子)の紹介で来た家政婦・大野晶子こと"メガネ会計ババア(注:『あまちゃん』出演時の呼び名)木野花」に集中していた。


また、物語のメインは、スズ子(趣里)と茨田りつ子(菊地凛子)、羽鳥善一(草彅剛)、タナケン(生瀬勝久)と、安定感+わくわくの布陣。しかし、今週は役者頼みでない巧みさが随所に感じられた。


スズ子がタナケン(生瀬)と映画で共演することに。スズ子は愛子を撮影所に連れて行くが、愛子(小野美音)のおてんばぶりは周囲に迷惑をかけ、撮影を止めてしまう。


一方、茨田りつ子(菊地凛子)は自身の歌に納得できない状況が続いていた。そんな折、りつ子は記者・鮫島から、スズ子が歌を捨てる気だ、りつ子について「歌しかない」と言っていたと聞かされ、「あの子もおしまいね。ブギも終わりよ」と言い放つ。それが記事になると、最初は取り合おわなかったスズ子だが、鮫島の口車に乗せられ、スズ子とりつ子の対談が行われることに。


しかし、歌に対する情熱を失っておらず、子育てしながら必死に生きるスズ子の姿を目にし、自分が鮫島に乗せられていたことに気づいたりつ子は、スズ子を訪ねて謝罪する。スズ子も謝罪し、友情が復活。本来はりつ子が主役と言っても良いくらいの週である。


一方、そろそろブギをやめようと思っていた羽鳥は、りつ子の「ブギは終わり」に触発され、ブギで行くことを決意。そこでワクワクし、さらに2人の仲が復活したことをスズ子から聞くと、さも面白そうに「なんだ、もう仲直りしてしまったのかい?」とガッカリしてみせ、次は陽気な恋の歌だと言いつつ、「ヘイヘイ」と歌いながらグルグル回るクレイジーさは、実に羽鳥らしい。


本作では一貫して、羽鳥×草彅という人物の解像度が高く、喜劇的場面でも悲劇的場面でもブレず、いつでも「羽鳥ならこう言うだろうな」と納得感と共に驚きをくれる。特に今週は、仕事が忙しすぎて現実逃避するかのように、陽気に子どもたちと『青い山脈』を歌い、遊び、妻に注意されるくだりも、スズ子VS.りつ子を見守るくだりも、あまりに羽鳥らしかった。


また、今週光っていたのは、愛子のあまりに自然な芝居。しかし、それは子役の才能だけでなく、脚本と演出により引き出されている部分もあった気がする。
粉を被る、怪我をするなどの分かりやすい場面が注目されがちだが、それ以外の随所に愛子のおてんばぶりが垣間見えた。


例えば、タイ子(藤間爽子)親子がスズ子を訪ねて来た時、親たちの会話を聞いているのか聞いていないのか、愛子はスズ子の隣にちんまり座ってしきりに手悪さをしていた。


さらに、『青い山脈』を羽鳥家で歌うときに机の下に1人潜り、見つかったときに目をキラキラさせるのも、いかにも大物感がある。それでいて、山下(近藤芳正)が鮫島の記事を持参し、母と不穏な話をしているときも、時折、山下や記事をチラ見しつつ、平然と食事を続けている。りつ子が訪ねてきたときも、お菓子をもらうときだけ手を出し、その後はやはりスズ子の傍らで人形を裏から見たり、つついてみたりと、自分なりの"研究"に没頭している。


こうした子どもの気ままさ、特に、適度に親たちの様子を見ながら、適度に周囲の情報を遮断して自分なりに過ごす様は、いかにも家の中に「親の仕事」が日常的に入ってくる家庭の子らしい。


そして、そうした子役の自然な芝居を引き出しているのは、現場が作り出すリラックスした空気だろうし、何度もスズ子が愛子の頭を撫で、寝顔を覗き込み、傷が残らなかったと安堵する様子や、愛子がスズ子に手を伸ばしたり、さりげなく抱きついたりする様子が、言葉で、あるいはわずかなカットで表現されている、行き届いた脚本・演出によりもたらされている部分もある。


これら細かな描写から浮かび上がるのは、母一人子一人ゆえのスズ子の溺愛ぶりと過保護ぶり。それに気づかせ、子離れさせるための家政婦・大野さんの投入。さらに、「陽気な恋の歌」として作られた「ヘイヘイブギー」を、ともすればワンパターンな構成に陥りがちなステージパフォーマンスの披露ではなく、母と子の愛の歌として、子守り歌として披露する演出。


妙に芝居が自然で繊細な演出だと思い、確認すると、櫻井剛脚本×盆子原誠演出の週だった。個人的な好みもあるのだろうけど、これまでも「今週は丁寧だな」と思うと、このタッグで、他に『大空の弟』『ワテはワテだす』なども担当している。ちなみに、『あなたのブツが、ここに』のタッグだ。


わざわざ探すでもなく、自然と脚本×演出で好みの週が見えてくるのも、朝ドラの面白さの一つ。それを再確認させてくれた第21週だった。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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