【ブギウギ】「どのように描くのか?」注目の展開のなか、視聴者が思い出した「朝ドラ史上最高傑作」

【先週】初回放送につながる演出にゾクッ...舞台に戻ったヒロインが歌う「東京ブギウギ」がもたらした感動

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「思い出される朝ドラ史上最高傑作」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ブギウギ】「どのように描くのか?」注目の展開のなか、視聴者が思い出した「朝ドラ史上最高傑作」 pixta_2061255_M.jpg

趣里主演の朝ドラ『ブギウギ』第20週「ワテかて必死や」が放送された。

笠置シヅ子をモデルとした朝ドラが発表されたときから、おそらく一部視聴者の間ではどのように描かれるのか注目されていたであろう、今週の展開。なぜなら笠置が「パンパン」と呼ばれた夜の女たちの間でアイドルだったことは史実でよく知られているためだ。

加えて、今週は懐かしい顔が登場した。もしかしたら制作スタッフは忘れていて、何かの拍子に急に思い出したのではないかと思うほど久しぶりの再登場である。

『東京ブギウギ』の大ヒットを機に、福来スズ子(趣里)は"ブギの女王"となる。スズ子は新曲を羽鳥善一(草彅剛)に依頼するが、忙しさから作曲はなかなか進まない。

そんなある日、スズ子は芸能記者・鮫島(みのすけ)の取材を受けたことから、大変な事態に巻き込まれる。記事でのスズ子の発言が気に入らないとして、有楽町の夜の女たちのリーダー・ラクチョウのおミネ(田中麗奈)が怒鳴り込んできたのだ。山下(近藤芳正)に深入りするなと釘を刺されるが、スズ子はおミネに会うため、有楽町のガード下に向かう。

腹を割って話したいと言い、自分の苦労を洗いざらいぶちまけるスズ子だが、おミネには立場が違うから理解し合えないとおミネに反論される。

余談だが、田中麗奈は近年、映画『福田村事件』やNHKスペシャル"宗教2世"を生きるドラマ編『神の子はつぶやく』など、社会派作品にも意欲的に挑戦し、演技に重厚さが増している印象があった。しかし、このラクチョウのおミネと仲間たちの描写は、「あたいはねぇ」「ずいぶんナマな口きくじゃないか」といったセリフ回しをはじめ、正直、昭和のスケバンのようで、他局から『不適切にもほどがある』(TBS)が乗り込んで来たかと思うくらいだった。

実際、SNS上でも「ノリは昭和のスケバン」「大映ドラマ」「顔はやめなよ、ボディボディ」(注:『3年B組金八先生』第1シーズン三原じゅん子の有名なセリフ。正確には『顔はやばいよ、ボディやんな、ボディを』だった)などの指摘が散見された。

ともあれ、スズ子はその帰り道、怪我をした靴磨きの少年・達彦(蒼昴)に遭遇。家に送り届けると、そこにいたのはスズ子の幼馴染・タイ子(藤間爽子)だった。

病気で床に伏せるタイ子に拒絶された後、達彦に会いに行ったスズ子は、タイ子との思い出を語り、タイ子の近況などを聞く。そこで、タイ子の力になりたいと考え、おミネに相談を持ち掛ける。それは、夜の女たちに靴磨きを達彦に依頼してほしいということ。

この解決策の是非はともかく、いつもよりたくさんお金をもらった達彦が帰宅すると、タイ子はそれを返してくるように言う。そこで、見かねたスズ子が家の中に押し入ると、タイ子は夢を叶えたスズ子とどん底にいる自分を比べ、惨めで恥ずかしいと嘆くのだった。

ところで、産みの親と育ての親が違うことを知ったり、養母を亡くしたり、戦争と恋を経験、愛する人の死により、未婚の母になったりと、スズ子の人生は波瀾万丈過ぎて、正直なところ、他者の人生どころではなかったのかもしれない。しかし、仮にスズ子本人やスタッフが忘れていたとしても、熱心な視聴者たちは今回の再登場に至るまでにも、折に触れ、タイ子のことを思い出していた。

例えば「同じ東京にいるだろうに、スズ子はタイ子に連絡しないんだろうか」というのは度々気にされていたし、スズ子が妊娠して「この子を父無し子にしたくない」と言ったときには、脳裏にタイ子のことが浮かんでいてほしかった。いや、セリフも描写も全くないだけで、本当は浮かんでいたのだと信じたい。なぜなら、子役時代の2週間のスズ子とタイ子のやり取りが本当に愛おしかったから。そして、大人になったタイ子が艶やかで素敵な女性になったのも見届けていたから。

加えて、今回のおミネやタイ子のくだりの心理描写は、朝ドラ史上最高傑作と名高い、渡辺あや脚本の『カーネーション』という優れたサブテキストで脳内補完できる。主人公・糸子(尾野真千子)の幼馴染で金持ちのお嬢だった奈津(栗山千明)がパンパンになっていたこと。糸子のお節介が、旧知の仲で幼馴染・勘助の母親「安岡のおばちゃん」(濱田マリ)に「あんたの図太さは毒や」と断じられたこと。おそらく今週の展開を観ながら「『カーネーション』、また観たいなあ」と『カーネーション』熱が再燃した視聴者も多いだろう。

ともあれ、おミネたちとの出会い、タイ子との再会を果たしたスズ子が羽鳥に伝えた話は、羽鳥のインスピレーションを刺激し、そこから新曲が生まれる。「ジャングル・ブギー」だ。いつもながら趣里の情熱溢れるパフォーマンスと、いつでも登場するだけで視聴者をワクワクさせる草彅剛の存在感は圧巻だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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