【ブギウギ】朝ドラファンなら知っている「チーム制脚本」の難しさ。本作の「脚本家リレー」が成功した理由は

【先週】涙なしでは見られない...「母の死」と「弟の出征」。繊細に描かれた「死」に向き合う人々の心の動き

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「脚本家交代の評価」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ブギウギ】朝ドラファンなら知っている「チーム制脚本」の難しさ。本作の「脚本家リレー」が成功した理由は pixta_77387409_M.jpg

趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第9週「カカシみたいなワテ」が放送された。

今週は、東京に戻ったスズ子(趣里)が梅吉(柳葉敏郎)と一緒に暮らし始めて1年、飲んだくれてばかりの梅吉と、戦時下でますます苦境に立たされたエンタメの世界が描かれた。

日中戦争が始まって3年、贅沢が禁止され、梅丸楽劇団も派手な演目や演奏を取りやめるよう警察から指導され、スズ子は三尺四方の枠から動かず歌うよう指示されてしまう。

自分の歌が歌えないと悩むスズ子の元に、弟子にしてほしいと飛び込んできたのが、小林小夜(富田望生)だ。スズ子は、小夜の下宿先が見つかるまで面倒を見ることにするが、スズ子が食事代として渡したお金で小夜が酒を買い、梅吉と2人で昼から大騒ぎ。言うこともコロコロ変わる小夜を信用できないとスズ子が追い出すと、梅吉とケンカ状態に。

わかりやすいダメ父ぶりを発揮する梅吉は、おでん屋で客とケンカし、警察の厄介に。しかし、それはスズ子をけなされたからという予想通りの展開が描かれる。

一方、楽団員はどんどん減り、枠の中でおとなしくカカシ状態で歌うスズ子に客は退屈するようになり、とうとう楽団は解散に。スズ子には大阪に戻ってこないかという誘いもあったが、自身の楽団を立ちあげることを決意。

スズ子が葛藤し、奮起するきっかけになったのは、自身の信念を貫く茨田りつ子(菊地凛子)だ。警察署でも自身の信念を貫き、派手なドレスに真っ赤な口紅、高いヒールも変えず、国防婦人会の女性たちに詰め寄られても「これはあたしの戦闘服よ」と啖呵を切る。りつ子の公演に訪れ、『別れのブルース』に感動したスズ子がその思いを伝えると、「イライラする。あんた、歌いたいんじゃないの? なら人の歌なんかに感動してないで歌いなさい」と言い、自身が楽団を背負っている矜持を示してみせたのだった。

全体に暗い雲が立ち込める中、今週の大きな見どころは、脚本がメインの足立紳から櫻井剛に交代したこと。『拾われた男 Lost Man found』(NHK BSプレミアム)の足立紳と、NHK夜ドラ『あなたのブツが、ここに』の櫻井剛という信頼感はあった。しかし、『舞いあがれ!』の例を見るように、チーム制脚本が難しいことは、多くの朝ドラファンが知っている。

結論から言うと、脚本家が変わったことに違和感を覚えた人は少なかった。その理由は、先週ツヤ(水川あさみ)が亡くなり、六郎(黒崎煌代)が出征し、ツヤが切り盛りして来たはな湯もゴンベエ(宇野祥平)が引き継ぎ、何もかも失った梅吉が「ずっと立ち直れない」という状況のために、極端でわかりやすいクズぶりも無理のない変化としてとらえられたこと。

小夜という、これまたわかりやすい強烈キャラも、「新キャラ」の登場としてイライラしつつも楽しまれた。また、茨田りつ子はもともとわかりやすいキャラクターだ。

ファンタジー要素が色濃くあった足立脚本から、地に足着いたシビアな現実路線に変わったことも、時代の変化と考えれば納得がいく。チーム制脚本で脚本家交代の絶妙なタイミングだったと言えるだろう。

そんな中、異なる色合いの世界観を地続きにさせていたのは、変わりゆく時代に悩み、苦しみ、必死であがくスズ子を演じる趣里。そして、抑えた表現で怒りや悲しみを表現する羽鳥を演じる草彅剛だった。

次週はさらに悲しい展開が描かれる予感だが、はたして......?

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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