【ブギウギ】涙なしでは見られない...「母の死」と「弟の出征」。繊細に描かれた「死」に向き合う人々の心の動き

【先週】ヒロインの恋心が描かれた今週。視聴者が気になった「お金問題」の説明不足は「あえて」なのか?

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『死』への向き合い方」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ブギウギ】涙なしでは見られない...「母の死」と「弟の出征」。繊細に描かれた「死」に向き合う人々の心の動き pixta_95380845_M.jpg

足立紳・櫻井剛脚本×趣里主演の109作目のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第8週「ワテのお母ちゃん」が放送された。

母の死と弟の出征が描かれた今週。第二次世界大戦が始まろうとする中、日本にも戦争の足音が忍び寄る。

ツヤ(水川あさみ)の病状は悪化していたが、検査費用などを心配するため、大きい病院に行かず、衰弱していく。

そんな中、六郎(黒崎煌代)に赤紙が届く。一人前に扱われることを無邪気に喜び、はしゃぐ六郎が切ない。さらに、「熱々さん」の紹介で来た専門医の診察により、ツヤが末期癌でもう長くないことがわかる。このあたりの診断方法含め、大雑把な病気の描写は何かと疑問符もつくが、「死」を意識する人たちのそれぞれの向き合い方は実に繊細だ。

ツヤの病状を受け入れられない梅吉(柳葉敏郎)は、出征を前にはしゃぐ六郎を、大きな声で叱る。精神的支柱を欠こうとしている状況で神頼みしかできない梅吉は、六郎に大きな声を出したことを謝り、弱音を吐く。

出征を前に、六郎は軍隊に行ったらどん臭いのは卒業するとツヤに言うが、ツヤは六郎は鈍臭くなんかない、みんなも自分も本当は六郎のように正直で素直に生きたいのだと伝える。

子どものようにツヤに甘えながらも、弱音は決して吐かない六郎。それは怖いことが大嫌いな六郎が精一杯振り絞った勇気という優しい嘘だった。

出征の日、「行ってまいります」は戻ってくるようだから「行きます」の方が良い、自分の息子もそうしたとアサ(楠見薫)に訂正され、「行きます」と言い直し、発った六郎が向かった先は、スズ子(趣里)のもとだった。

チズ(ふせえり)に姉弟が似ていないと言われると、六郎が本当の姉弟じゃないと答え、スズ子に小突かれ制止されるのは通常運転。スズ子の部屋を見てはしゃぐのもいつも通りだ。しかし、上京の理由を問われると、入隊したらいつ会えるかわからないからと、赤紙を見せる。

そこで初めて六郎は、本当は入隊してまたバカにされるかもしれなくて不安だと打ち明ける。死ぬことが怖い、死ぬのは嫌だということも。

空気が読めず、暗黙の了解がわからず、本当のことを言っては周囲を度々凍らせてきた六郎。そんな彼がもしかしたら生まれて初めてついた嘘が、一番怖い死と向き合わないための、両親やみんなを心配させないための空元気だった。そして、姉にだけは正直な六郎のままになれたのだろう。

かつて自分の出生の秘密を知り、心と体がバラバラになりそうだと泣いたスズ子を抱きしめ、繋ぎ止めてくれた六郎を、今度はスズ子が同じように抱きしめる。何でも思ったことを正直に口にし、賢いのか何も理解していないのかわからない六郎のキャラはまさしくこの時のためにあったのだと感じる。そんな正直さと優しさ、無垢な様を表現する黒崎煌代の芝居が光る。翌朝、六郎は振り返らず去って行った。「行ってまいります」という約束の言葉を残して。

六郎を見送ってからしばらくした頃、公演真っただ中のスズ子に大阪から電報が届く。それはツヤの危篤を知らせるものだった。葛藤するスズ子に、羽鳥(草彅剛)は大阪に戻るよう言い、「むしろ自分の苦しい心持を味方にして、いつもよりいい歌だなんて言われるくらいじゃなきゃ僕はダメだと思う」と伝える。スズ子は公演を続けることを決意。それは歌手としての矜持であり、何よりツヤがつけてくれた芸名と「お客さんにも、ぎょうさん福を届けたり!」の思いを背負ったものだったろう。

無事公演を務めあげた後、大阪に戻ったスズ子は、ツヤの病状を受け止めきれない。そんな中、かつてスズ子の風邪を治した、ゴンベエ(宇野祥平)の桃を思い出し、アホのおっちゃん(岡部たかし)がツヤに食べさせようと桃を見つけてくる。看病しながら眠ってしまったスズ子が、翌朝目にしたのは、信じられない光景だった。ツヤが番台に元気に立っていたのだ。

しかし、ほどなくツヤが番台で倒れてしまう。母が危篤でも歌を優先した自分を「どアホ」と責めるスズ子に、ツヤは言う。「どアホで上等や。さすがわての子や」

危篤状態から子どもが帰ってきたことなどでいったん持ち直すという不思議は、現実にもよくあること。そんな命の奇跡を見せ、スズ子の選択と同じく自らも「仕事」に戻ったツヤの奇跡は、長くは続かなかった。

もっと歌を聴いて欲しいと泣くスズ子。歌うことが母に別れを告げることと感じていたのだろう。そんなスズ子に、歌ってやれと言ったのは梅吉だった。誰よりツヤを愛し、ツヤを頼り、その存在なしでは一時も生きられないような梅吉が、ピリオドを打ち、ツヤを苦しみから解放した展開は涙なしに見られないものだった。

ファンタジー的展開でゴンベエの素性がわかり、連れ合いもできて、はな湯を継いでくれることが決まった。次週、父との東京暮らしは波乱の予感だ。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

PAGE TOP