【ブギウギ】「才能」に悩みもがくヒロインたち...シンプルな展開に込められた「現代的なメッセージ」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「現代的なメッセージ」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】タチの悪い「嘘」にモヤッ...ヒロインが生きる「虚構の世界」で鍵になりそうな登場人物

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足立紳・櫻井剛脚本×趣里主演の109作目のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第3週「桃色争議や!」が放送された。

今週は確実に存在するのに不確かでつかめない「才能」と、「続ける」難しさ・しんどさ、個人の尊厳が描かれる。

昭和8年、梅丸少女歌劇団(USK)は人気劇団となり、スズ子(趣里)は「教育係」になる中、世界恐慌の波が忍び寄っていた。

USKに花咲少女歌劇団から秋山(伊原録花)が移籍して来たことで、不穏な空気が生まれる。秋山と同じ男役の桜庭(片山友希)は、才能も人気もある秋山の存在に焦り、スズ子も自分の個性について考え始める。

USKをもう一段上に引っ張りたいと考える大和礼子(蒼井優)は、自ら演出に挑戦。スズ子に、続けていれば自分の個性はいつか必ず見つかる、でも、続けるのが一番難しいと説く。

「才能」について悩むのは、スズ子だけではなかった。伴奏役の股野(森永悠希)は、本当は交響楽団に入りたかったが、その才能がないと言い、愛らしさで男たちを魅了する白川(清水くるみ)も、自分の才能について、「あるとしたら、落ち込まん才能や」と自虐する。才能がないならやめろと新人を厳しく叱責していた秋山だが、そんな秋山の思う「才能」とは、スズ子のように1人居残って練習し続ける、頑張る情熱だった。

この悩みは若者特有のものでもなく、映画の台本を書き続ける梅吉(柳葉敏郎)も、「才能もないのに続けている」「続けるのが一番難しい」と言い、愛妻・ツヤ(水川あさみ)が辞めさせてくれない、重荷だと嘆く。

そんな中、桜庭がUSKを辞めると言い出すが、スズ子は逃げても良いと言う。どうにもならないことはある辛さをスズ子自身も感じていたためだ。

では、なぜスズ子は続けられるのかと桜庭が聞くと、スズ子は答える。怖いし、自分の売りも見つからないし、へタだけど、それでもやめられない。歌って踊ることが好きで好きで仕方ないから、と。そんなスズ子の正直な思いに刺激され、桜庭の中に閉じ込めていた、自分も歌や踊りが好きだが、抜かれるのが悔しくて仕方がないという本音も溢れ出す。「大きなお世話してくれるな」と泣き笑いの桜庭に、「堪忍な」とスズ子も泣き笑い。

そんな情熱が伝染したかのように、大和が悲鳴にも似た声を漏らす。
「私だって、どうにもならないことがある!」。誰も辞めさせたくない、みんなで楽しくやりたい、みんな続けて欲しい、辞めないで欲しい、と。いつも冷静で大人で気丈だった大和が突然少女の顔になる、蒼井優の芝居に圧倒される。と思ったら、実はこの場面では台本では泣くことになっていなかったのだが、スズ子と大和の芝居にほだされ、大和が抱えていたプレッシャーに気づき、涙が出たのだということを、10月20日放送の『あさイチ』『プレミアムトーク』で蒼井優が語っていた。実際に演者同士の情熱がつながり、一つになった瞬間だったのだ。

そこで、大和がラインダンス演出を提案した意図を汲んだ男役トップ・橘アオイ(翼和希)が、「永遠に修行や! 楽しい修行や!」と言うと、スズ子は「嫌やなあ、永遠に修行は嫌やなあ」と言い、一同が笑い、全員笑顔のラインダンス。

しかし、大熊社長(升毅)は、賃金と人員の削減を断行。楽団員と新人たちが解雇され、桜庭も去ることに。大和は解雇の撤回と賃金・休暇を含めた嘆願書を会社に提出。それは「桃色争議」として新聞でも報道される。

会社はスズ子ら一部中心メンバーに一時金を渡し、嘆願書を取り下げさせようとするが、スズ子らは断固拒否。ストライキを決意する大和と、お客様が大切だと言う橘は意見が対立してしまう。

しかし、その要求が自分たちだけのためではなく、後進たちのためであること、大和が辞める覚悟で戦いを決意していることを知った橘は、大和に先んじて社長に直談判に行く。そして、団員を駒としてしか考えていない社長の発言に耐えかねたスズ子が割って入り、「嫌なこと嫌やって、ちゃんと言える人間にならんといけない」「一番大切なんは......」と言葉を詰まらせると、大和が引き継ぐ。

「自分自身です。自分を大切にできない人間に、お客様を大切にできません」

そして、自分のために社長と戦ってくれていた橘をハグし、「ありがとう」と伝え、去るのだった。

一番大切なのは「自分自身」で、自分を大切にできなければ他者も大切にできないこと、嫌なことは嫌とちゃんと言うこと――シンプルな展開に、非常に現代的なメッセージが込められた第3週。朝ドラとして画期的な価値観の提示だったのではないだろうか。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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