毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「優しい嘘」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
足立紳・櫻井剛脚本×趣里主演の109作目のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第2週「笑う門には福来る」が放送された。子役編2週目では、様々な「嘘」が描かれる。
梅丸少女歌劇団に入団した鈴子(澤井梨丘)は、劇団の娘役トップスター・大和礼子(蒼井優)の踊りに憧れる。しかし、男役トップスターで教育係の橘アオイ(翼和希)の指導のもと、厳しさに根を上げた新人たちは次々と脱落、あっという間に「同期」が3人になってしまう。
残った同期は、実家が裕福でバレエを習って来たものの、親に劇団入団を反対されている白川幸子(小南希良梨)と、家が貧しく、家業を手伝いながら通う桜庭辰美(木村湖音)。正反対の境遇で激しく衝突する2人を鈴子は仲裁しようとするが、掃除や洗濯の尻拭いをするハメに。
そんな中、ショーの準備を任された3人だが、アオイの蝶の羽を幸子が忘れたことで、連帯責任として全員が怒られる。そして、互いへの不満は爆発。「仲良しごっこやないねん!」と辰美が啖呵を切り、仲裁に入った鈴子も幸子に「人が好過ぎる」と言われてしまう。しかし、鈴子は礼子から、一番迷惑するのはお客さんであること、舞台を観に来るのは現実を忘れるためであること、同期は大切にすべきということを教えられ、少しずつ意識が変わっていく。
そんなある日、劇団がついに念願の単独公演を行うことに。鈴子たち新人にもデビューのチャンスが訪れたが、デビューできるのは同期3人のうち1人だけ。オマケで入った鈴子だが、2人に負けないのは「梅丸愛」だと宣言。しかし、その直後に倒れてしまい、「百日咳」と診断されたことから、休まざるを得ないことに。
しかし、それを機に、幸子と辰美も同期の大切さに気付く。ところが、鈴子は百日咳ではなく単なる風邪で、見舞いに来た2人に、寝床から弱弱しく手を差し出し、2人を尊敬している、同期で良かったと感謝する。それはすぐに嘘だとバレるが、3人は結果的に結束。1人だけデビューの話も「3人」に変わり、それぞれ芸名「福来スズ子」「リリー白川」「桜庭和希」として無事初舞台を果たすのだった。
それにしても、今週は「嘘」が多かった。
単なる風邪で倒れた鈴子に、医師「熱々さん」(妹尾和夫)が百日咳だと言ったのは、ヤブではなく、おそらく子ども(しかも、鈴子のような猪突猛進型の子)にはそのくらい言わないと、休まないだろうと思ったからかもしれない。そんな鈴子に桃を食べたいと言われ、ツヤ(水川あさみ)は桃探しに奔走するが、季節外れのためにどこにもなく、肩を落として帰ると、ゴンベエ(宇野祥平)が桃を手渡す。入手経路を聞かれても「記憶にございません」と笑うゴンベエ。
さらに、鈴子の弟・六郎(又野暁仁)に「アホのおっちゃん」(岡部たかし)が言った、鈴子と六郎は実の姉弟ではないという話も、おそらくアホのおっちゃんにとってはタダ風呂の言い訳「10万円持ってたけど、落とした」と同類のものだろう。しかし、そこで慌てふためいたのが、鈴子を実子と「嘘」をついて育ててきた両親だ。
林部長(橋本じゅん)の「3人の中で1人だけデビュー」も、もしかしたら3人を切磋琢磨させるための嘘だったかもしれない。
そんな中、多くの視聴者がモヤッとしたのは、鈴子が幸子と辰美を仲良くさせるためについた「嘘」。鈴子の嘘は、他の人達のそれと違い、「命」や「病気」をネタにし、本気で心配してくれる人を騙すタチの悪いものだ。そこには「2人を尊敬している」という本心があったにしろ、そんなタチの悪い嘘をつくのは、鈴子がまだ命の重さも知らない子どもだからだろう。
なにせタイ子が家庭の事情に悩んでいるときも、自分には何も嫌なことがないとツヤに明るく言ってのけた、「両親の嘘」に守られてきた鈴子だ。辰美や幸子と違い、劇団に入ることも「両親」に応援され、苦労がないから頑張らなければいけないと前向きに語る鈴子だ。
こうした「優しい嘘」は、これからおそらく自身の生い立ちを知り、波乱万丈の人生を送る中でも「お客様に現実を忘れさせ、生きる力を与える」虚構の世界を生きる鈴子の土台になるのだろう。
ちなみに、アホのおっちゃんの「嘘」を鈴子に話してしまうのも、鈴子の「仮病」を同期たちにバラしてしまうのも六郎だった。そんな六郎は、初舞台の「福来スズ子」の名前を聞いて一言「名前、間違うとる」。嘘に溢れた世界で六郎の存在は、一つの鍵になりそうだ。
そして、初舞台シーンから6年が経過、そのまま舞台上で6年後のスズ子・趣里が登場する。非常に魅力的な子役の退場を嘆く間もなく、実にスムーズに本役にバトンタッチされた第2週。ここからいよいよ本格的な舞台の道が始まる。