私たちは毎日身のまわりの「便利なモノ」のおかげで快適に暮らしています。でもそれらがどういう仕組みなのか、よく知らないままにお付き合いしていませんか?
身近なモノに秘められた"感動もの"の技術をわかりやすく解説します!
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●修正液
ボールペンで書いた文字を消すのに便利なのが修正液である。修正液の白は、日焼け止めに使われる酸化チタンだ。
インクで書いた文字やイラストを修正するのに便利なのが修正液。発売当初は刷毛(はけ)で修正箇所を塗りつぶすタイプが主であったが、現在ではペンタイプが一般的になっている。また、テープ形式も人気だ。
修正液の成分には、溶剤としてメチルシクロヘキサンが、字を消すための白の顔料として酸化チタンが、その顔料を固まらせるための固着剤としてアクリル系の樹脂が利用されている。顔料の酸化チタンは重く、放置しておくと溶剤の中で分離して沈んでしまう。そこで、長く放置した修正液は、上部に透明の溶剤が集まり、使い物にならなくなる。そんなときは、使用前にキャップをしてよく振ることだ。ペンタイプの修正液には攪拌用(かくはんよう)の玉が入っていて、振るとカタカタ鳴る。よく鳴らしてから利用しよう。
修正液で注意すべきことは、消す文字を書いたインクとの相性だ。相性が悪いと、消したい文字のインクが浮き出て、かえって汚くなってしまう。使う前に相性を確認しておきたい。
日常生活の中で「白」はすべての色の基礎となっているが、酸化チタンにまさる白はないといわれる。
そこで、修正液では酸化チタンが白の原料として利用されている。絵の具でも白の顔料としては酸化チタンがよく用いられる。余談だが、酸化チタンは多少高価なので、安価な絵の具には酸化亜鉛がよく代用されている。
「酸化チタン」という言葉には、文具以外でも聞き覚えのある人も多いと思う。化粧のファンデーションや日焼け止めクリーム、抗菌剤に利用されているからだ。酸化チタンには不思議な性質があり、光に当たると分解作用や親水作用の触媒(しょくばい)として働く。触媒とは、自らは変化せずにほかの化学変化を促進する性質を持つ物質のこと。光の作用で触媒作用が生まれるものを光触媒と呼ぶが、酸化チタンはその代表だ。「掃除不要のトイレ」「汚れない塗装」「曇らない鏡」などの材料として、その性質は多様な分野で活用されている。
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<教えてくれた人>
涌井良幸(わくい・よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。教職退職後の現在は著作活動に専念している。貞美の実兄。
涌井貞美(わくい・さだみ)
1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程修了後、富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。良幸の実弟。