【どうする家康】伏線が回収されてしまう...瀬名(有村架純)に近づく「命をかける」瞬間。彼女の運命は

日本史上の人物の波乱万丈な生涯を描くNHK大河ドラマ。今年は、松本潤さんが戦国乱世に終止符を打った天下人・徳川家康を演じています。毎日が発見ネットでは、エンタメライター・太田サトルさんに毎月の放送を振り返っていただく連載をお届けしています。今月は家康の妻・瀬名が掲げる「慈愛の国」について語っていただきます。

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】「殿はきっと大丈夫」視聴者号泣の「胸アツ展開」と武田信玄(阿部寛)の圧倒的存在感

【どうする家康】伏線が回収されてしまう...瀬名(有村架純)に近づく「命をかける」瞬間。彼女の運命は morita_06@ (1).jpg

イラスト/森田 伸

松本潤主演のNHK大河ドラマ「どうする家康」。本作は戦国の世を終わらせ江戸幕府を築いた徳川家康の生涯を、古沢良太が新たな視点で描く作品だ。本記事では6月放送分を振り返る。

有村架純演じる瀬名は、とにかく第1話からずっと、「かわいい瀬名」であり「強い瀬名」だった。家康がどんな状況に陥っても、氏真に人質状態にされたときも、ずっと強く、明るく、ときに天然ふうだったり、作品を見る側に好感しか生まないキャラとして描かれてきた。

放送開始から半年という折り返し地点をむかえ、瀬名は大きな、あまりにも大きな決意のために動く。

戦乱の時代、常に男たちは民のため、国のために戦いを続ける。しかし、それは本当に戦をしなければ手に入らないものなのだろうか。それをずっと考え続けてきたのが瀬名だ。

「大切なものを守るために、命をかけるのです。命をかけるときは、いつか必ず来ます」

6月25日放送の「築山へ集え!」は、かつての瀬名の母の言葉が回想されるところから幕を開けた。そのときが近づいたということだろうか。

信玄亡きあとも続く武田勢との終わりなき戦いのなか、織田と手を切るか、臣下に収まるか葛藤する家康。武田に攻められる長篠を救うためには織田軍の手助けがどうしても必要だ。

そんななか、娘の亀姫が、信長に頭を下げ、「どうか仲直りしてくださいませ」とストレートに懇願する。そこに母の瀬名が、家康は臣下となることを拒んでいるのではなく、家臣たちのことを考えているので先に長篠を救ってやってから答えるから待ってくれと、家康に代わり説得する。

とにかくこの大河、女性はことごとく強く、重要な役回り。この母娘による信長説得のように、ときにはまるで女性が主人公かのような錯覚すらおぼえるほどの活躍をみせる。

古川琴音が演じる謎めいた女性・千代もまた、戦乱のなか、武田のもとに身を寄せながらも重要な役どころを担ってきた。

そんな千代と瀬名が、何度も顔を合わせ、少しずつ何かを動かそうとしていく。

いっぽう、織田・徳川連合軍は、3000丁の鉄砲による圧倒的火力で攻め入る武田軍をいとも簡単に撃ち払う。そのあまりのさまに、信康は父・家康に問う。

「父上......これは戦にございますか? これは......なぶり殺しじゃ......」

虫も殺せない信康は、人が変わったように好戦的になる一方で人を殺すことによる悪夢を見るようになる。まさに"闇堕ち"状態だ。

そんな息子の苦悩する姿もまた、瀬名がこれまで密かに抱いてきた小さな思いを一気にふくらませることになる。

瀬名と千代は、物言わずとも通ずるものがあったのだろう。

「岡崎と信康様を救えるのは、あなた様だけと存じまする」

千代の一言が、瀬名に最後の決意をさせた。

瀬名は、信康に告げる。

「ずっと胸に秘めてきた考えがある。すべてを賭けて、それをなす覚悟ができている」

瀬名が暮らす築山を訪れた家康に「殿には最後にお話するつもりでした」と口を開く。

瀬名の覚悟、それは武田と手を組み、戦いでなく、国と国とのつながり、「慈愛の心」で結ぶ新しい世の中をつくることだった。

戦いですべてを決着する世において、その「途方もない」プランは、絵空事のようなものだったかもしれない。しかし瀬名はその絵空事に本気だった。

そのために、今川氏真や義父の久松なども説得し、味方につける。氏真は、徳川と武田が手を結べば北条も間違いなく加わるという。敦賀や越後、奥州など多くの国が手を結び、ひとつの大きな国となれば、信長も手出しはしてこない。理想論なのかもしれない。しかし、策略家の千代までが、笑みを浮かべながら、「いずれ織田様もわれらのもとへ集うことになるでしょう」と言う。やはりこのドラマ、女性が転がしていくドラマだ。さまざまな女性の登場人物がやたら印象的な活躍をしてきたことが、伏線となりひとつに結びついていく。

「日本国がひとつの慈愛の国となるのです」

瀬名の掲げる慈愛の国で、この戦乱の世の中が終わり、新しい時代が生まれるかもしれない。家康の家臣たちも、慈愛の国実現のため、武田と組むことを信長に隠し通すことを最大級のミッションとする。

しかしー
勝頼は、最終的に裏切る。「戦い続けて死にたい」と。ドン引きする千代。

結局、瀬名の策略は信長の知るところとなり、理想の世界は一気に悲劇へと加速していく。瀬名と信康が重罪となることは避けられない。

この慈愛の国の構想は、のちの江戸時代の世に通ずるものがあるようにも感じられる。瀬名の思いを受け、家康は大きく変わっていくのか。愛する者のため、どうする、家康。7月第1週、第25話「はるかに遠い夢」でその運命の行方を見届けたい。

文/太田サトル
 

太田サトル
ライター。週刊誌やウェブサイトで、エンタメ関係のコラムやインタビューを中心に執筆。

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