【らんまん】見飽きた「朝ドラあるある」が気にならない...脚本とスタッフ陣の絶妙な「バランス感覚」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「嬉しい新章の幕開け」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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 【らんまん】見飽きた「朝ドラあるある」が気にならない...脚本とスタッフ陣の絶妙な「バランス感覚」 pixta_90187041_S.jpg

長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第6週「ドクダミ」が放送された。本作は、明治の世を天真らんまんに駆け抜けた高知出身の植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)の人生をモデルにしたオリジナルストーリー。

東京編がスタートした今週。視聴者がまず注目するのは、「お金」と「住まい」の問題だ。

なぜなら迷作『ちむどんどん』のみならず、一部視聴者の中では「名作」とされる『おかえりモネ』などもはじめ、朝ドラには主人公が仕事も住まいも決めずに上京し、なんとなくうまくいってしまう作品が実に多いからだ。

東京に着いた万太郎と竹雄(志尊淳)は、野田基善(田辺誠一)のもとを訪ね、東京大学への紹介状をもらう。大学に、それも東京大学に入る困難さが小学校中退の万太郎には理解されておらず、今後辛酸を舐めることになるはずだが、それは次の話として、万太郎は名教館時代の学友・広瀬佑一郎(中村蒼)に会いに行く。佑一郎の叔父の家を下宿先として紹介してもらっていたためだ。

それにしても、ちゃんと下宿を決めていること、お礼をきちんと言えること、お金の面ではボンボンで世間知らずの万太郎を支えるため、少々の仕送りと竹雄が住み込みで働くことが決まっていることなどが描かれる本作の安心感。破天荒、天真爛漫のキャラを描くからこそ、作り手の常識とバランス感覚が問われるのだとしみじみ思う。

ただし、植物標本などの荷物が大量にあるため、捨てて欲しいと言われた万太郎たちは、結局、自分で下宿先を探すことに。しかし、大八車に大量の荷物を積んでさまよううち、大事な標本の入ったトランクを盗まれてしまう。そこで質屋に行ってみると、万太郎のトランクらしきものを持った女(成海璃子)が現れる。トランクは買い取りできず、万太郎はトランクを取り戻すことができたが、中身は空だった。そこから標本を探し歩いた二人は、ドクダミが咲く薄暗い根津の十徳長屋にたどり着く。

そこには、トランクを盗んだ男・倉木(大東駿介)がいて、まさに植物標本を燃やそうとしている最中だっため、ギリギリでそれを制止し、金を払うから標本を返してほしいと交渉する。そこへ、トランクを質屋に持ってきた女が現れる。それは、倉木の妻だった。

妻は倉木を咎めるが、子どもが熱を出していると聞いた万太郎は、医者を呼びに行かせ、その費用を負担する。その後、福治(池田鉄洋)ら長屋の住人たちの誘いで夕食を御馳走になった後、りん(安藤玉恵)が医者代を返しに来る。りんは長屋の差配人で、倉木の借金もずっと肩代わりしていたのだった。そこで、りんから空き部屋があることを聞いた万太郎は、その部屋に住むことを決める。この展開そのものは、正直、ご都合的だ。

しかし、そこからの展開で小さなツッコミをねじ伏せて来る。

植物標本を買い戻した万太郎に、雑草に金を払う意味がわからない倉木は、「施しか」と訝しみ、自分自身に刃を突き立てるように悪態をつく。

「誰の目にも入らねえ、入ったとて疎まれ、踏み躙られ、踏み躙ったことも誰も覚えてねえ雑草なんか、生えててもしょうがねえだろうが」

だが、万太郎は言う。

「雑草ゆう草はないき。必ず名がある!」「わしは楽しみながじゃ。わしが出会うたものが何者かを知るがが。わしは信じちゅうき。どの草花にも必ずそこで生きる理由がある。この世に咲く意味がある、必ず」

朝ドラではドヤ感が気になってしまう作品も多い主人公の言葉が、本作では「名言」として輝くのは、神木隆之介の愛嬌・芝居の上手さのせいだけではない。そもそも決して上から目線の説教ではないからだ。

植物の知識があり、植物の絵がうまく描け、英語もでき、伝える力もあり、自分がすべきことをすでに見つけ、後に近代植物分類学の権威となる万太郎(モデル:牧野富太郎)でも、この時点ではまだ小学校中退の「何者にもなれていない」"雑草"だ。しかし、必死で何者かになろうとしていて、自身の力を誰よりも信じている。それは同じく雑草で、何者かになれることを諦め、投げやりに生きている倉木にも響いたはずだ。

しかも、万太郎をカッコよく終わらせないのが、本作ならでは。標本を無事に買い戻して安堵する万太郎に、竹雄はきっちり"教育"を忘れない。

「生まれながらに金が湯水のように」あった万太郎は、その感覚を変える必要があると説き、新たな語学を教える教師よろしくリピートアフターミーの調子で復唱させるのだ。

「峰屋は、若の財布じゃない! はいっ!」

「峰屋は、若の財布じゃない!」

胸を打つ良い言葉、良いシーンの直後に、テレ隠しのように笑いを入れてくる長田育恵脚本とスタッフ陣のバランス感覚は、ちょっと宮藤官九郎作品的でもあり、ニマニマしてしまう。

さらに万太郎は初恋の人・寿恵子(浜辺美波)と再会するが......。東京編も良作を確信できた今週。実に嬉しい新章の幕開けだった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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