【らんまん】植物を愛する「天才」な主人公。その裏で「秀才」側の努力も描く本作の「美しさ」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「本作の美しさ」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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 【らんまん】植物を愛する「天才」な主人公。その裏で「秀才」側の努力も描く本作の「美しさ」 pixta_89856322_M.jpg

長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第6週「ドクダミ」が放送された。本作は、明治の世を天真らんまんに駆け抜けた高知出身の植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)の人生をモデルにしたオリジナルストーリー。

東京編2週目。野田基善(田辺誠一)からの紹介状を得て、東京大学に学びに行く万太郎。誰より植物の知識があり、植物標本の作り方も分類の仕方も知っていて、英語も堪能だとはいえ、「小学校中退」の万太郎が無試験で東大に簡単に入れたら「そんなご都合、許せん!」という思いで、注視していた視聴者は多かったろう。

その一方で、野田らに会った際、「偉い先生方やのに、あんなに気さくで」と驚く竹雄(志尊淳)に万太郎が言った「違うき。きっと偉い先生ほど気さくながじゃ」の答えが出る週でもある。

そして、そのあたりをきちんと必然性をもって描いてくるのが『らんまん』だ。

立派な洋服を仕立ててもらった万太郎は、ぱっと見、立派な教授か何かのようだ。しかし、突然訪ねて来た得体のしれない人物に、当然ながら植物学教室の面々は戸惑い、助教授の徳永(田中哲司)や講師・大窪(今野浩喜)は取り次ごうとしない。

田中哲司と今野浩喜といえば、2018年の朝ドラ『まんぷく』でパクリ商品「本家まんぷくラーメン」を作ったコンビ。さらに言えば、夏目漱石『坊ちゃん』の赤シャツ&野だいこ的ポジションで、「組織のナンバー2」の王道キャラでもある。

しかし、そこに現われたのは、田邊教授(要潤)。アメリカ留学から帰った田邊は英語堪能で、バイオリンも弾けて、シェイクスピアや詩集を読んでいる、今の時代には絶滅危惧種の「幅広い教養を当たり前に身に着けた真正のインテリ」。

だからこそ「小学校中退」という経歴・肩書よりも万太郎の持参した「土佐植物目録」の価値が誰よりわかる。そこで万太郎は東京大学植物学教室への出入りを許された。

とはいえ、そもそも野田の紹介状も「便宜を図ってあげて~」といったふんわりした内容だったし、出入りを許されたと言っても、万太郎の待遇面は一つも語られていない。社会人としては非常に重要なことなのに、銭勘定の話が誰からも出ないのは、野田も田邊も万太郎も植物を愛し、学問を愛する恵まれた人たちだからだろう。

しかし、本作では「教授と話したければ、まず順序というものがある」と言い、まず中学校を出るように言う徳永に、万太郎がそんな遠回りはできないと反論すると、学生たちから「その遠回りをして俺たちはここにいますよ」「無論、進学できなかった人もいます」という声があがる。

他の全てを捨て(というか、もともと持ち合わせておらず)、興味のある対象物のみに全力を注ぎ続けることができる「天才」の成功譚としてでなく、地道にコツコツ目の前の課題をクリアしてきた「秀才」側の努力も足蹴にしないのが、本作の美しさの一つ。

と同時に、そうした地道にコツコツだけではたどり着けない場所があるのもまた事実で、万太郎は尊大な態度の田邊らに、毅然とした態度で「ほんなら、結構ですき」と言い放ち、英語で言い返す。

「You won 't be laughing when I 'm known by the world.(あなた方は黙ってわしが世界に打って出るがを眺めちょったらえい)」

小学校中退の万太郎が英語を流暢に話すことに目を白黒させ、さらに植物標本を出した瞬間、誰もが目を輝かせるのは実に痛快だ。

晴れて万太郎は東京大学植物教室に通うことになり、「出入りの研究生」なのかどうかわからない待遇のまま、遥かに凌駕する知識で学生たちに標本の作り方の手本を見せ、指南するまでになる。

一方、竹雄も仕事が決まり、一安心。そんな中、寿恵子(浜辺美波)は叔母・みえ(宮澤エマ)から鹿鳴館の開館に向け、ダンスを習わないかと誘われる。万太郎は植物教室に差し入れる菓子を買うため、白梅堂に立ち寄り、寿恵子に好きな植物を尋ねて「ボタン」と聞くと、教室でボタンの絵を描き始める。

その絵の巧みさは田邊教授にさらに気に入られる要素となる。しかし、万太郎がボタンの花の絵を寿恵子に渡した際に語った田邊の名前が、寿恵子が叔母から聞いた鹿鳴館に関わりの深い人物だったことから、寿恵子は「まだ見ぬ世界」への憧れを強めることに。

それぞれに「まだ見ぬ世界」に憧れる万太郎と寿恵子が遠く見つめる先は、全く違う世界でありつつ、その中継点に田邊が存在する形となった。そんな2人の世界がどのように結びついていくのか、気になる展開である。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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