「介護」と聞くと「大変そう、辛そう」というイメージを抱く人も多いのではないでしょうか。しかし、そんな印象を覆すほど"ゆかいな介護生活"を送っている家族がいます。介護従事者や在宅介護に悩む人々から支持を集めるYouTubeチャンネル『認知症ポジティブおばあちゃん』を運営するだんだん・えむさんです。今回はそんな彼女の初著書『認知症ポジティブおばあちゃん~在宅介護のしあわせナビ~』より一部抜粋してご紹介。元気をくれてタメになる一冊です。
※本記事はだんだん・えむ(著)、遠藤 英俊(監修)の書籍『認知症ポジティブおばあちゃん~在宅介護のしあわせナビ~』から一部抜粋・編集しました。
【前回】おばあちゃんが認知症になった日。忍び寄る認知症と「変化の兆し」
認知症の宣告におばあちゃんは......
おばあちゃんが認知症専門医の診察を受けたのは、2017年、85歳のときでした。
夫の大阪赴任が決まったタイミングでもあり、家庭のいろいろな心配事をスッキリさせておこうと考えたのです。
かかりつけのお医者さまからも「おばあちゃん、認知症かもしれませんよ」という指摘もあって、大きな病院の専門医を紹介していただきました。
おばあちゃんは「認知症」という言葉を知らなかったため、説明をするために痴ほう症を引き合いに出したところ、「私はボケてないッ!」と怒り心頭。
そのため専門医の診察を受けにいくときは、認知症とも痴ほう症とも言わずに「最近、ちょっと物忘れが多いから調べてもらおうか。お薬で良くなるかもしれないし」と軽い雰囲気で誘い出しました。
「知っている野菜の名前をあげてください」「100から7を引いたらいくつですか?」広く行われている認知症のテスト(「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS ─ R)」)を受けたのですが、おばあちゃんはあまり答えられませんでした。
帰り道には「あの先生の聞き方が悪い。失礼だ!!」「子どもにするような質問をしてきて、馬鹿にして!」とグチと怒りが止まらず......。
おばあちゃんとしては年齢のせいで少し物忘れがひどくなった程度に思っていましたから、よほど不愉快に感じたのでしょう。
昔から、おばあちゃんはとっても責任感の強い人です。
今も「しっかりしなくちゃ」「忘れちゃあかん!」と自分で自分に言い聞かせているほど。
それほど強い意志を持っている人にとっては「ボケている」前提で話が進んだり、自分が無力のように扱われることはプライドが許さなかったのだと思います。
たとえ周りにはそんなつもりはなく、ただ心配しているだけだとしても。
認知症のテストをした日に脳のレントゲンも撮ってもらいましたが、前頭葉が萎縮しており、スポンジのようにスカスカ状態なのが素人目にも明らかでした。
私たちとしては認知症と認めざるを得ない状況でした。
おばあちゃんにも正直に「お医者さんから認知症だとはっきり診断されたよ」と告知したものの、数日経つと「病院には行ってない」と忘れてしまったような口ぶりになったり、かと思えば、突然思い出して「あの先生はおかしい!」と怒りだしたり......。
しばらくは忘れたり思い出したりが繰り返されて、結局は忘れてしまいました。
認知症の専門医にはっきりと診断していただいたことは、私たち家族にとっては「おばあちゃんは認知症なのだ」と現実を直視する出来事になりました。
一方で、おばあちゃん自身は認知症を認めるまでには至りませんでした。
ただ、ここ1年くらいでしょうか。
驚くことに、おばあちゃんが自分の症状を認めるフシが出てきたのです。
動画でも「いやね、すぐ忘れちゃって」と言う場面がありますが、最近は「私はすぐ忘れちゃうからね。そういう病気だからね」というニュアンスで話してきたりします。
以前はムキになって「私はおかしくない」と言っていたのに......。
「認知症は忘れていく病気だし、ましてや自分の病気を認識することはできないだろう」
そんな自分の中の認識がひっくりかえりました。
いつかまた忘れてしまうのかもしれませんが、病識が持てる可能性もあるのだなと実感しています。
認知症患者を説明する話の中に「感情残像の法則」というものがあります(公益社団法人認知症の人と家族の会HP『認知症をよく理解するための9大法則・1原則』)。
どういうことかというと、認知症患者は理性の世界から感情の世界へ行く。
ですから言ったこと、聞いたこと、行ったことはすぐ忘れるけれど、感情は残像のように残る、という意味です。
いつも笑顔で気持ちよく接することで、おばあちゃんの心に大切なことが伝わったのかな。
自分では勝手にそんな風に思っています。