【舞いあがれ!】ついに舞と貴司が... クセ強な"2人の刺客"が引き出した「本音」と「穏やかな告白」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「貴司の穏やかな告白」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【先週】舞が打ち明けた「恋心」と「怖さ」。ヒロインの"計算"が見え隠れする残酷な脚本

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福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第20週「伝えたい」が放送された。

先週、視聴者を大いにざわつかせた貴司(赤楚衛二)の担当編集者・リュー北条(川島潤哉)と、貴司の短歌のファン・秋月史子(八木莉可子)。

繊細で傷つくのが怖いゆえに、人との間に壁を作りがちな貴司の「本音」を引きずり出すための"刺客"2人が、実に良い仕事をする。

リュー北条はこれまでの300首の他に、これまでとは異なる、多くの人に届く新たな10首を作るよう貴司に言う。

商業媒体の編集者として当然の要求ではあるものの、貴司を苦しめる「俗物」に見えたリュー北条が、辣腕を振るい始める。

貴司の短歌を「パンチが足りない」「淡い」と評し、貴司の"強火オタ"の史子が反論すると、「君の方がエゴイストだよ。自分好みの綺麗な短歌を書いていてほしいんでしょ? 美しいソプラノを聞きたいがために、少年の成長を止めようとするような残酷さを感じる」と指摘する。

自分勝手な理想と思い込み・妄想を推しに求めがちな、あらゆるジャンルのオタクを震撼させる名言である。

そんなリュー北条が貴司に出したお題は「相聞歌」、つまり恋の歌だ。

しかし、恋の短歌が書けないと悩む貴司の繊細ゆえの臆病さに、リュー北条は理解を示しつつ、「せっかくのマグマに蓋しちゃって」もったいないと嘆く。

一方、自分を貴司の短歌の"理解者"で、共に深い孤独を抱えた同志だと思い込んでいる史子は、押しかけ女房をして勝手に差し入れをしたり(「うめづ」のお好み焼きなので、さすがに貴司の両親が代金を受け取ってはいないだろう)、遅いから帰ったほうが良いと言われても居座ったり、リュー北条との打ち合わせに勝手に同席したりする。

おまけに、舞(福原遥)に対して、自分のほうが短歌も、貴司の孤独も理解しているとして、マウントをとる。

純粋さと感受性の豊かさ、押しの強さ、コンプレックスが同居していて、目鼻立ちがはっきりして目ヂカラが強く、長身&猫背の史子が、ふわふわウルウル控えめな子ウサギのような舞と向き合うと、丸ごと飲み込んでしまいそうな迫力だ。

しかし、悲しいかな、舞に対して優位を感じていた史子の短歌への造詣の深さが、史子に自身の失恋を自覚させる。

貴司のこれまでの300首に恋の歌があったこと、それが舞に贈られたものと気づいてしまったのだ。

リュー北条も気づかなかった、淡く慎ましい貴司の恋心の「本歌取り」に気づいたときの史子の得意げな顔が実に愛らしく、と同時に悲しい。

そこからのリュー北条&史子の連携プレーは見事。

リュー北条は酔っぱらってデラシネを訪れ、「いるんでしょ? 大切な人が。その人の心に向かって、ど真ん中ストレート投げるつもりで書けよ! そういう歌が大勢の心を打つんだよ!」と激励。

一方、史子は舞を訪ね、貴司の唯一の恋の歌のはがきを見つけて、それが「情熱的な恋の歌」の本歌取りであることを告げる。

そして、貴司の本当の思いを聞きに行ったらどうかと言う。

恋する女性である前に「歌人」だった史子が、唇をギュっと噛み、悲しみをこらえて去っていく姿が美しい。

きっとリュー&史子で組んでみたら、ヒット作の短歌集を出せるのではないか。

そんなクセ強・魅力大の脇役包囲網に後押しされた繊細な貴司と舞が、ついに自分の本当の思いを伝え合う。

これまで舞の人生の節目節目で貴司が贈ってきた短歌と、励ましてきた言葉がここで数々の回想シーンと共につながり、2人の思いが重なった時に、珠玉の一首が詠まれる。

「目を凝らす 見えない星を見るように 一生かけて君を知りたい」

燃えるような熱く激しい恋心ではなく、優しく淡く穏やかな、それでいて万人にわかりやすく響く貴司らしいプロポーズのような歌だ。

このラスト4分により、改めて柏木(目黒蓮)との恋が舞にとって本当の恋ではなかったこと、だから2人の恋があまり視聴者に響かなかったのだということがよくわかる。

功労者・リュー&史子のおかげもあり、最高に盛り上がった告白シーン。

ただ、欲を言えば"柏木公園"ではなく、いつもの舞と貴司のつながりを示す自室の窓越しで見たかった。

とはいえ、窓を飛び越えるには距離がありすぎるし、2人が殻を破り、新たなステージに行くためには、いつもと場所を変えたというのも慎ましく律儀な2人らしいのかもしれない。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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