【舞いあがれ!】ハズレ週と思いきや...ヒロインの「聞く力」が発揮された「心にしみる1週間」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ヒロインの『聞く力』」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【先週】ついに舞と貴司が... クセ強な"2人の刺客"が引き出した「本音」と「穏やかな告白」

【舞いあがれ!】ハズレ週と思いきや...ヒロインの「聞く力」が発揮された「心にしみる1週間」 pixta_55342042_S.jpg

福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第21週「新たな出発」が放送された。

先週、互いに思いを伝え合った舞(福原)と貴司(赤楚衛二)がついに結婚。

五島から祥子ばんば(高畑淳子)や木戸(哀川翔)、信吾(鈴木浩介)、さくら(長濱ねる)、一太(若林元太)が駆けつけたのは良いが、歴史も浅く関係性も薄い百貨店勤務の百花(尾本祐菜)までいるのに、由良(吉谷彩子)以外のなにわバードマンの面々や、倫子(山崎紘菜)以外の航空学校の面々(未婚の異性を呼ぶのは非常識とする人もいるためか?)はいない。

おまけに、貴司側の招待客には担当編集・リュー北條(川島潤哉)すらおらず、舞がウエディングドレスを着ているのに、会場はいつもの「ノーサイド」で、披露宴なのか二次会なのかわからないという不思議な状況に、視聴者はザワついた。

それでいて、久留美(山下美月)と悠人(横山裕)の接近はともかく、山田(大浦千佳)と営業の藤沢(榎田貴斗)が付き合い始めていたり、ノーサイドの店主・津田道子(たくませいこ)と佳晴(松尾諭)が良い雰囲気だったりというカップル祭り状態に、ハズレ週を予感した視聴者もいただろう。

しかし、通常の朝ドラでは週終わりに描かれがちな「結婚式」を週頭に持ってきたことからも、本作がそこに重きを置いておらず、日常の積み重ねを描くことに力を注いでいることがわかる。

事実、今週は結婚式以降の描写がいろいろ沁みた。

先週引退を考えていることを明かした笠巻(古舘寛治)が、ぎっくり腰により、その決意を固める。

一方、近隣のクレームを受け、市役所の職員がIWAKURAに騒音調査に来る。

調査の結果、問題のなかったものの、問題となると騒音対策に費用がかさんでしまう。

そこで、舞は新聞記者・御園(山口紗弥加)のアドバイスにより、地域の町工場と協力して一般の人を招き、工場を見てもらう「オープンファクトリー」を計画する。

外から見た「町工場の手作りのあたたかさ」みたいなファンタジーに逃げず、東大阪の町工場が減り、そこに住宅が建つようになったことで軋轢を生むという現実のシビアさを描くところが、本作の魅力の一つだ。

実際、幼稚園・保育園や小学校などにすら騒音のクレームをつける人が多数いる世知辛い世の中で、近隣の理解を得る手段を講じるのは、現在のクレーム対策の一つの有効な手立てだ。

とはいえ、東大阪の町工場の2代目社長の集まりでは、休日に従業員を働かせることや準備が必要なこと、一般人を工場に入れることで問題が起きたときの対応など、反対の声が。

そんな中、舞は唯一賛同してくれた的場(杉森大祐)のアドバイスで、市役所の安川(駿河太郎)に相談する。

初めて会った安川の特注の名刺には、特徴的なプロペラの人力飛行機のイラストが。

それを見た舞の脳裏に、かつてなにわバードマンの先輩・空さん(新名基浩)から聞いた話が浮かぶ。

「このスワン号のプロペラは、ターミガン号の魂を受け継いじょる。もうずっと前に卒業した安川先輩が、3日寝ずに考えた構造やったかいね」

まさかここで空さんが語った伝説の先輩とつながるとは。

舞の驚き・興奮と、数カ月前の記憶が不意に蘇って結び付く視聴者の快感とが完全にシンクロした。

しかも、舞がなにわバードマンの後輩だと打ち明けると、「岩倉」の苗字からすぐにパイロットだったことを理解する安川。

卒業後もなにわバードマンの動向には注目し続けていたことに、胸が熱くなる。

用もなく、ちょくちょく顔を出す歓迎されないOBがいるのは、サークル・部活あるあるだが、なにわバードマンの場合、感傷や甘ったるい思い出ではなく、「人力飛行機」という関心でつながる理系ガチ勢だからこその結びつきが、実に心地良い。

そんな安川は、現状2社のみの参加であることに難色を示したものの、協力してくれそうな元なにわバードマンで現・浪速大学の准教授で都市ブランディングの専門家・渥美(松尾鯉太郎)を舞に紹介。

そこから渥美のゼミ生も協力してくれ、市役所から資金援助もしてもらえるようになり、オープンファクトリーで模型飛行機を作る計画が進んでいく。

そんな中、笠巻の引退の日がやって来るが、めぐみと舞はオープンファクトリーの指導係を笠巻に依頼する。

そして、舞は笠巻と距離のある娘と孫をオープンファクトリーに誘い、イベントは成功&笠巻と娘・孫の距離も縮まる。

ここに来て舞の、キャッチフレーズのみの自称の政治家とは異なる「聞く力」が存分に発揮された。

御園に相談したから、他の町工場の二代目たちに声をかけたから、的場のアドバイスを聞いたから、市役所を頼ったから、大学生たちにも頼ったから、笠巻の家庭の事情に耳を傾けたから、様々な点と点がつながり、イベントが成功して、会社にも町にも家庭にも新たな息吹が吹き込まれたのだ。

そんな舞に次週、起業の話が......。

はたして舞が周りの人たちとつないだ縁、無数の点はどこにつながっていくのか。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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