【舞いあがれ!】絶望展開を好転させた"2人の兄ちゃん"。桑原脚本による「巧みな描写」が見事すぎる

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「欠けていたピース」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【先週】視聴者からの「批判の声」も狙い通り...? 絶望展開の中で際立つ「ヒロインの未熟さ」

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福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第16週「母と私の挑戦」。

浩太(高橋克典)が亡くなり、航空会社の内定を辞退した舞(福原)は、母・めぐみ(永作博美)と共にIWAKURAの再建を行う覚悟を決める。

日々の地道な努力でどん底から一歩一歩這いあがっていく中、当初は顔も名前もわからなかった社員一人ひとりのキャラが徐々に立ち、徐々に愛着がわき、最終的にモブキャラがいなくなる展開は、「なにわバードマン」の再来のよう。

在庫処理と経費削減、リストラを終え、信用金庫の信用を得ることができためぐみは、融資の返済期限が延長されたことを社員たちに報告する。

ただし、猶予は半年。

そこでめぐみは営業に注力することを決め、舞がその役割を担うことになる。

ここから舞の素人ならではの弱さと強さ両面が見えてくる。

自社の製品の特徴も知らない舞の営業はうまくいかないが、何しろ素直な舞は、ネジの作られ方を笠巻(古舘寛治)に講習してもらうことにし、めぐみもそこに加わる。

最初は素人相手に一から教える笠巻に同情する声や、素人社長の頼りなさを嘆く声も聞こえたが、ネジが好きな若手・土屋(二宮星)も加わり、講習会は徐々に盛況に。

好きなことに集中するタイプで、なおかつ地道な勉強も得意な舞は、ネジのことがわかってくるにつれ、どんどん面白くなっていったのだろう。

ネジの勉強に夢中になり、遅刻しそうになるほどに。

一方、めぐみは売上データを確認する中、売れば売るほど赤字になる受注に気づく。

営業担当の藤沢(榎田貴斗)に確認すると、それはリーマンショックで仕事が減った際、何とか売り上げを出そうと安く仕事を請け負ったものだった。

実際、製造業では「赤字で仕事をとっている」といった話を不況下ではよく聞くが、めぐみは状況を打開すべく、先方への値上げ交渉に挑む。

取引先には「主婦が家計見直すみたいなことしか、できはれへんのやねえ」と嫌みを言われるが、めぐみは毅然として言い放つ。

「主婦が家庭守るように、社長は会社守らなあきません。材料費が高騰している今、この値段のまま取引していたら会社を危険にさらすことになります」

「新しい価格は、弊社の職人たちが持つ高い技術への正当な対価やと思ております」

夢見る力と優しさ、温かさで従業員たちに愛され、支えられていた浩太とは違うやり方で、交渉相手と堂々と渡り合い、と同時に社員たちを鼓舞し、モチベーションを上げるめぐみの剛腕。

本来、小さな頃から何でもできる子だったのに、信頼する夫を支える役割に徹して、経営などに口出ししてこなかっためぐみが、本来持てる能力を、夫を失ったことで発揮できるようになるのは、清々しい一方、皮肉な結果ではある。

しかし、それも浩太が言っていた「良い機械があって、良い職人がいて」「ここには何でもある」を引き継いだからこそだ。

一方、舞の熱心な営業スタイルは取引先にかつての浩太を思い出させ、それが新しいネジの仕事の受注につながる。

それは大きな取引だったが、ヘッドハンティングで他社へ行った章(葵揚)がいない中、ネジの設計を誰がするのかという問題に。

そこで舞はこっそり章に助けて欲しいと連絡をする。

元社員とはいえ、社外の人に試作品の設計を依頼するのは本来、ルール違反だ。

だからこそ章が工場に来て、図面を見せて欲しいと言っても、めぐみは躊躇するし、従業員たちは無償で手伝わせるのはダメと言い、章は今いる会社にきちんと許可をとってIWAKURAの試作に参加する。

舞の素人ならではの無茶を、周りの大人がきちんとたしなめるのも良いし、そんな素人の無茶が結果的に工場に新しい風を吹き込んだ展開も良い。

最初は「世間知らずのお嬢ちゃん」である舞に嫌みを連発していた事務員・山田(大浦千佳)が、要領が悪く、根気強くしぶとい舞に半ば呆れ、感心し、巻き込まれていった結果、真っ先に残業を飲んでくれたのも嬉しい。

さらにめぐみは土地と工場を投資家に買ってもらったこと、その購入者に家賃を払うことで工場を続けていくことを社員たちに報告する。

その投資家は、息子・悠人(横山裕)だった。

しかも、親として情に訴えかけるのではなく、「経営者」として正面からビジネスの交渉をし、再建プランに納得してもらったうえで資金協力を得るめぐみ。

悠人の表情は大きく変わらないが、頬に赤みがさす様に、親が自身を認め、対等に向き合ってくれたことへの高揚感が見える。

ここまで欠けていたピース――悠人が、ここに来て見事にハマった。

そして章もIWAKURAに戻って来てくれることに。

「日々の地道な積み重ね」と「チーム戦」の描写が実に巧みな桑原亮子脚本の良さが濃密に詰め込まれた第16週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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