定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、「老後の資産運用をどうするのか」についてお聞きしました。
物価上昇に対応できる投資法とは?
4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率が前年比2・1%となりました。
6月以降もさまざまな商品の値上げ予定が並びますから、これから2%以上のインフレがくるのは確実です。
そうなると、頭が痛いのは、自分の資産をどのように守ったらよいのかということです。
これまで四半世紀にわたって続いてきたデフレの時代には、資産運用を真剣に考える必要がありませんでした。
現金や預金で持っていても、物価が下がるので、資産の実質的な価値が上がっていったからです。
ところが物価が上がり始めると、放っておくと、資産の価値がどんどん目減りしてしまうので、何らかの対策を講じる必要が出てきます。
先日、ニッポン放送の『垣花正あなたとハッピー!』という番組で、厚切りジェイソンさんと対談をしました。
ジェイソンさんは、『ジェイソン流お金の増やし方』という著書がベストセラーになっています。
ジェイソンさんの投資戦略はシンプルです。
それは、貯蓄できるお金を毎月全額、アメリカ株の分散投資型ETF(上場投資信託)の購入に回すというものです。
つまり、アメリカの幅広い企業に分散投資をするということです。
長期でみると、これまでアメリカ株への投資は日本株への投資よりも有利でした。
例えば、ニューヨークダウと日経平均株価を使って、投資が何倍になったのかをみると、昨年末の株価は10年前と比べて、ニューヨークダウは2・8倍、日経平均は3・4倍と日経平均の方が、成績がよくなっています。
ただ、これは10年前の日経平均が異常に安かったからです。
20年前に投資した場合はNY4・4倍、日経2・7倍と立場が逆転します。
30年前に投資した場合は、NY11・0倍、日経1・3倍と、とてつもない差がついてしまいます。
しかし問題は、株式による資産運用には、株価下落という大きなリスクが伴うことです。
そのことをジェイソンさんに聞くと、「長期で考えれば、問題はない。株価が下がったら、その分同じ金額でたくさんの株を買えるので、リターンはむしろ大きくなる」というのです。
ジェイソンさんの意見は、一理あって、昔から「ドルコスト平均法」といって、毎月一定額の投資を続ければ、安いときに多く、高いときに少なく購入することになるので、結果的に利回りが高まるのです。
ですから、私はジェイソンさんの投資法は、有効な方法であると思うのですが、2つ条件があると考えています。
一つはアメリカの繁栄が続くことです。
これまでアメリカ経済は順調に成長してきましたが、今後、そうではなくなる可能性も十分にあります。
そうでない場合は、投資先を別の国にしないといけません。
もう一つの条件は、このやり方は、若い人に向いている方法で、少なくとも50歳台後半以上の人には勧められないということです。
50歳台後半より上の人に勧める資産運用法
その理由は、買い続けることができなくなるからです。
年金生活に入ったら、新たに投資に回すお金はほとんどなくなります。
そしてもう一つの理由は、取り崩す時期が近いということです。
これまで米国株価の最大の下落は、1929年10月24日の暗黒の木曜日からの暴落でした。
ただそのときの下落は、短期間で暴落したのではなく、株価が最安値をつけたのは、3年後の1932年7月でした。
そのときの株価は、暴落直前の最高値から90%も下がったのですが、ニューヨークダウが元の最高値を回復したのは、1954年で、実に22年も後のことだったのです。
せっかくの投資が大きく目減りしているところで、老後資金の取り崩しが始まったら目も当てられません。
しかも、余命はそれほど長くないのですから、最大22年間も株価の回復を待ち続けることなどできません。
それでは、老後生活が間近に迫った人はどうすればよいのでしょうか。
私は、預金などの元本保証の金融資産の割合を高めておくべきだと思います。
もちろん、その分はインフレで目減りしていきますが、株価下落のリスクは、インフレによる目減りよりもはるかに大きいのです。
また、外貨による運用をしている人は、ここのところの円安で利益が出ている人が大部分だと思いますので、なるべく早く利益を確定させた方がよいと思います。
今年の年初をピークに米国株価は緩やかな下落トレンドに入っています。
アメリカの中央銀行の金融引き締めの効果もあって、アメリカ経済は減速していくでしょう。
そうなると、引き上げた金利を再び下げることになります。
そうしたら、日米金利差が縮小して、為替は円高に向かうでしょう。
ちなみに私自身は、1年半ほど前に外貨建てのものも含めて株式や投資信託を全て売却してしまいました。
少し先走りし過ぎました。
ただ投資を完全にやめたわけではなく、株価が大幅に下がったら、半分くらいの資金で買い戻す予定です。
全部にしないのは、私も老後が近いからです。